ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

動物園へようこそ

 

 

 

 ある日森の中、くまさんに出会った。そうして私は死んだ。しかも不幸になった。上空から核爆弾が落ちてきてすごく痛い。木々に括りつられた無数の葉に遮られ縁ができていても、どこまでも続いていることが一目でわかるほど青い空に、大きなキノコ雲が打ち上げられた。世界は火の海だ。白いワンピースが遠くにみえる。死にながら私は、全く知らない人物を思い出していた。彼はコーヒーを一口だけ飲んであとはグラスごと捨てるようなぶっきらぼうな男であり、ペットの犬とのセックスが日課となっている。黒くて大きなその犬は口で筆を噛んで絵をかけるほど器用であった。それ故、河川敷の浮浪者を殺した後、ステーキや、血のスープ、内臓で出汁をとって髪を漬けたラーメンなど、まるで高級ホテルのフレンチディナーのような料理をいくつもつくることができる。犬は浮浪者ディナーを用意すると、男から新鮮な浮浪者の骨を与えられるため、喜んで毎日彼らを殺していた。雨の日も、嵐の日も。男の家は慢性的に死臭が漂い、育てていた野菜も枯れてしまっていた。朝めざめる度に、不快な気分になる。真っ黒にふやけた葉や、黴だらけの根菜。男は腐った野菜を皿に盛り付けながら泣き喚く。俺が夢みたのは、こんな場所じゃない。夢みたのは、一面カラフルな花が咲き、季節ごとに新鮮な野菜が採れ、それが地平線の彼方まで続く幻想的な庭だ。今や浮浪者の死体の山。蝿が集り、野良犬や野良猫、タヌキ、トナカイ、キリン、ゾウ、見たことのない動物たちも集まってくる。俺の夢みたお花畑は、もはや夢の中にすらない。ノコギリを持って、動物たちの首を片っ端から切り落としていった。大切にしていた愛犬もオスだと気付いたので頭部を吹き飛ばした。しかしその日から、浮浪者ディナーが提供されることはなくなってしまったのだ。頬が落ちるほど甘い肉に、喉に粘りつく血液や、噛みごたえのある髪……。たまらなく浮浪者が恋しくなって、自ら河川敷へ狩りに出掛けることにした。街はどこもゴミの山。絶望的な風景が続く。いきなり殴ると殴り返してくるような教養のない人間だらけだ。河川敷、そこにはゴミを漁って生きている醜い姿の人間たちがかろうじて生きている。溢れ出す涎を飲み込むと、浮浪者たちは一斉にこちらを睨みつけた。男がホームレスイーターだということに気が付いたのだろうか。こちらも時代劇の主人公さながらの形相で睨み返す。浮浪者どもが怯んだその隙に、殴りかかった。ガイコツのように痩せ細り、綿アメ並の骨密度のこいつらに、俺の腰の入ったパンチは致命的だろう。しかし束の間、鋭く尖ったものが、一斉に体に突き刺さる。浮浪者たちの爪は長く伸びきっていて、先端は細く研がれていたのだ。感動的な、野生の知恵。こいつらには勝てない。狼の群れに飛び込んだ羊の気分だった。羊は最後の力を振り絞り全力で逃げ出した。しかしただでは帰らない。逃げる際にたまたま見つけた赤ん坊を、ひったくってきたのだ。これでまた、人間の肉を食える。赤ん坊を大事に抱え走り続ける。足を引き摺りながら追いかけてくる死に損ないたちは、さながらゾンビのようだ。ゾンビはそこら中から湧き出してきて街を徘徊する。俺は腐乱死体を蹴り飛ばしながら、なんとか知らない家に飛び込んだ。ここなら安全だ。溢れ出した涎を飲み込むことすらせず、赤ん坊に齧りつく。そして歯で肉を切り裂こうとする。しかし、浮浪者の赤ん坊は綺麗に舐め取られたフライドチキンの様に、ガリガリに痩せ細っていた。とても食える部分などないのだ。その瞬間、全てを悟り絶望した。あの犬は、浮浪者などではなく健康な人間を殺して調理してくれていたのだ。涙が止まらない。俺は孤独だ。もう何もない。残されたのは腐った野菜と枯れた花だらけの広大な庭だけ。自分ひとりでは、生きていくことすらできない。死を決意した。ストーブのそばにあった灯油を頭からかぶり、持っていたライターで火を付けた。たちまち誰かの家は炎に包まれた。燃え盛る家にはまた別の男がいた。彼は自慰をしていた。いや、自慰をせざるを得なくなったのだ。彼は模範的な泥棒であった。泥棒だが一般的な自己中心的で迷惑な泥棒と違い、良心的な泥棒なのである。適当な家に忍び込み、家中を完璧に掃除する。その報酬として見つけた金をありったけ持って帰るのだ。誰にも迷惑をかけない上に、人の幸福に直結する素晴らしい仕事だ。彼はこの仕事に日頃からやりがいを感じていた。俺は世界を救う、ヒーローだ。出会った女、全員に性交を申し入れる。しかしほとんどの場合断られる。それもそのはず、彼は常にドブの銭湯に浸かったような悪臭を放ち続けているのだ。その匂いは強烈で、ゴミ溜めに集るハエやカラスですら即死し、ゾウやキリンも失神する。彼の性交を受け容れるのは、死体か、壁の穴。彼は忍び込んだ家をいつも通り廃墟へと変えていった。自分では掃除しているつもりでも、彼が一度でも歩いた家はとても人間が住める環境ではなくなる。そこへ扉の開く音が聞こえ、次に男女の話し声が聞こえてきた。彼らがこれからセックスを開始することはすぐにわかった。彼は怒張させながらわざわざ寝室まで移動してからたまたまそこに居合わせただけの泥棒のふりをしてクローゼットに潜り込んだ。男女はやはり寝室に入ってきてくだらない俗談をしながらベッドに入り込む。囁くような会話が途切れ、暫くすると女の深い息遣いが聞こえてくる。クローゼットの扉に耳を寄せ、暗闇の中でその声を必死に聞く。殺人級の悪臭でも、肉欲には勝てないのだ。やがて女の呼吸は喘ぎ声に変わり、ベッドも軋みはじめる。当然、クローゼットの中は既に精液まみれだ。女の喘ぎ声はやがて絶叫へと変わり、更に呻き声へと変わった。映画に出てくるゾンビのような呻き声だ。ようやく女の呻き声が静かになると、だんだんと息をするのが苦しくなる。耐えられなくなりクローゼットの扉を勢いよく開けると、そこに男の姿はなかった。そこにあったのは炎に包まれた部屋と食い散らかされた女の死骸だけだ。乳房は食い千切られ、腹は裂かれ、内臓が飛び出していた。頭もぱっくりと割れ、そこにはストローが刺さっていた。ベッドは血にまみれ、腕や首からは新鮮な血液が流れだしていた。ああ、たとえ死体でも、誰かの食いかけであっても、女であることに変わりはない。慌てて服を脱いで食べ残しにかぶりつく。俺は幸せだ。女を抱きながら、炎の中で死ねるなんて。今日はクリスマスの前夜だ。そんなことをふと思い出した。死ぬことをやめて、喉まで続く臓器を無理やり掻き出して首に巻いた。炎は街を焼き尽くしてゆく。窓を突き破り、猫を百億匹殺しても死刑にならない世界を駆け抜けた!
 森を焼くのが好きだった。寒い森も、焼けばあたたかい。釣りをするのも好きだった。川に毒を大量に流し、浮いてきた魚を捕まえる。大自然の中で汗を流すのは、本当に気持ちが良い。捕まえた魚はしっかり川に戻す。キャッチアンドリリース。美しい響きだ。川のせせらぎに包まれて、目が覚めると森の中だった。白い花があちこちに咲いている。そこら中に転がる死体への手向けのように。川の浅いところに巨大なクジラの死骸が散々打ち上がっている。清々しい気分だ。ロープで縛られた裸の少女を解放してやる。さあ、旅立ちなさい、世界はどこまでも続いていますよ。森の中にポツンとある小屋が僕の家だ。趣味の悪い牡鹿の生首が玄関に括りつけてある。僕は自分の家に入る度に胃の中身を全て吐き出してしまうのだ。さて世界では、毎日クリスマスが繰り返されている。とてもハッピーな季節なのだ。毎晩ケーキ。毎晩シャンパン。トナカイが夜空を飛び交う。街に小さな家を建てて、家族でゆっくり過ごすんだ。お嫁さんと、子どもがふたりくらい。でっかい犬も飼おう。そんな夢を毎日みている。そのためには、社会に貢献し金を稼がねばならない。僕は総理大臣になることを決意した。そして総理大臣になった。まず世界中の老婆を殺処分。爆弾をいくつか投下。仕事は終わり、幸せな家庭を作り上げた。笑いの絶えない幸福な場所だ。娘がひとり。そろそろ初潮だろうか。でかい犬もいる。綺麗な嫁も、死んではいるようだが毎日一緒だ。ひたすら窓からワイン入りワイングラスを投げ捨てる日々だ。通行人の頭の裂け目からは、モダンな葡萄酒色の血液が流れ出る。娘は白いワンピースのよく似合う美しい少女だ。そのころの僕と言ったら、処女強姦のことしか頭になかった。僕は娘を心から愛している。透き通る瞳に真白な肌。膨らむ前の胸や穢れなき唇。それになにより処女である。ああ僕の、愛する娘よ、永遠に処女のままでいておくれ。そう囁きながら、娘を強姦した。初潮前なのに、血がべっとりと付着していた。眼球をふたつ取り出して食べた。全身が血まみれになるまで少女を犯し続けた。美しい少女よ。ここからお逃げなさい。このままでは、穢れてしまうから。娘は立ち上がり、壁伝いに扉を探す。しかし扉の前には画鋲が千個敷き詰めてあるので絶叫とともに少女は転げ回る。やっとの思いで窓を見つけると、渾身の力で頭をぶつけ、二階の窓を突き破り下に落ちていった。墜落である。素晴らしい。それでも少女は立ち上がる。裸足で土を踏み、冷たいコンクリートを踏み、クリスマスで狂乱する街を、燃え盛る街を駆け抜ける。壁にぶつかりながら、石につまずきながら、暗闇の世界を駆け抜ける。ああ美しい少女よ、穢れなき少女よ。いつまでも、どこまでも……。その姿を目に焼き付けるために、窓から飛び降りた。しかしそこには、決して有り得てはならない光景が広がっていた。少女の白いワンピースは、もうすっかり紅色に染まっていたのだ。激昂し、絶叫した。頭が爆発しそうだ。炎に包まれる街を駆け抜ける少女のワンピースは、真白でなければならないだろう。紅色のワンピースだ。これを誰が許せるだろう。処女ではない。そう確信した。彼女は、処女ではない。僕は女を追いかけた。紅い女だ。かつての透明色の少女は、もういない。僕が彼女の肩に手をかけたとたん、高い声で叫んだ。街中に響きわたるような声で。窓を開けてピアノを弾いている遠くの誰かに、それは歌声に聞こえるだろう。手を取り、走った。街を抜け、誰もいない森の中へと。白い森の中へと。
 ピンク色のゾウが躍る。ここは天国。もうすっかり調子がいいの。妖艶なコンクリート。淫乱な電柱。発火する市街。発光する死体。トナカイが空を飛ぶ。私も飛べるの。壁が妊娠し、緑色のイルカが飛び跳ねる。ナスもトマトも爆発し、世界をカラフルに染め上げる。マグロが空を飛び、モグラが降り注ぐ。皆、首はない。首はない。一面極彩色のお花畑。犬が沈没し、猫が暴落する。おいしそうな匂いのする鳥の声。真っ青な牛の糞の匂い。色とりどりな幾何学模様。回り回って目まぐるしい。赤、緑、黄色、歪む花畑。ああ、街は燃え上がる。もし、もし明日になったら、雨も降るでしょう。ペンギンが溶け、シマウマが煮える。サイが始まり、クジャクが終わる。わあ、実物大の模型になった街は、散々消えても、消え尽きない。先生、私、もう大丈夫。ビロードのプレゼント。靴下へありがとう。空き缶が繁殖し、新聞紙が暴発する。パジャマを焚いて、腕を切る。キリンの首を微塵切り。トラの頭が高速で射出されたの。ワニの群れは凄まじい暴風雨。悪夢じゃない。素敵な夢よ。カバは膨張し、カラスは破裂。オウムの様に真っ赤な風船の欠片が弾け飛ぶ。イカが焼かれて売られちゃう。タコがへばりついてくる。あらクラゲは、もう零れない。もし明日になったら、雪も降るでしょう。あら鏡の中にパンダさん、いらっしゃい。今日は素敵なクリスマス。街中ひっくり返して大騒ぎ。お月様も掴める距離まで下りてくる。サンタクロースは首に真っ赤なヘビを巻いて。ウサギが開いて、リスが割れる。ヒツジもどうやら困り顔。ニワトリはずっと不幸。あちこちで綺麗な花火。お線香たくさん焚いてお祝い。遠くでお星さまが点滅。ロバが軋んでコアラが燻ってシカが煙ってアシカが凍る。ブタが咲いてゴリラが萎れてワシが救ってラクダが聳える。大きな大きなイチゴケーキ。シャンパンで乾杯しましょう。ケーキの上の蝋燭の炎を、一息で消して真っ暗。あらみなさん、タバコかしら。灰皿なら、私です。
 口から煙を吐き出す。私は誰なのだろう。顔も名前もない。口はないのに、口から煙は出る。白い森。白い花しか咲かないこの森に、名付けの少女がいると聞いてやってきた。動物の生首がいくつも吊り下げられた気味の悪い小屋。壁にはポルノポスターの代わりに人間の皮が貼り付けられている。タバコの煙と火薬の匂いが充満。血の海に臓器が泳ぐ。巨大な鍋では人間の死体が煮込まれている。少女はいない。いるのは全身が黒い毛皮に覆われ、鋭い牙が剥き出しになった大きなクマだけ。私は小屋を燃やして首を吊った。木の枝から紐を垂らして燃える小屋をみていた。白い森に赤い花がひとつ咲いたみたいだ。木々の隙間から北斗七星がみえる。あの星のひとつひとつにも名前があるのに私は。遠のく意識の中で全く知らない少女を思い出す。白いワンピースの少女だ。残像が蘇る。お逃げなさい。かすかにそう聞こえる。ここから早くお逃げなさい。死にながら私は白い花がどこまでも咲いている森を歩いていた。また炎が広がって、飛び火する。どんなに燃えても燃え尽きることはない。炎はどこへでも移り、報われない者たちを焼いてゆく。
 目が覚めると燃え盛る森の前にいた。もはやそれは巨大なひとつの炎だった。あのクマが助けてくれたのだろうか。街は相変わらずゴミの山。腐乱死体があらゆる場所に転がっている。首のない動物たちが街を闊歩。炎は留まることなく広がり続ける。今日はクリスマス。大きなケーキに、シャンパンで乾杯! クッキーを焼いて、靴下を吊るす。モミの木を飾りつけて、放火。森の中でクマと踊るの。メリークリスマス! メリークリスマス!
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大好きなあの子におやすみを言いたい

 

 

 

家でひたすら酒を飲み続けていると、窓の外からピアノの音が聞こえてきた。聞いたことのあるような旋律。鼻歌をのせたくなるようなメロディ。鍵盤を押す繊細な動き。細くて白くて、それでいて力強い指の動きまで頭の中に浮かんでくる。私は一升瓶を片手に持ったまま、誘われるように窓の外へ出た。すると眼下に美しい女性がいた。私はすぐさま発情した後、射精。一年後、めでたく出産。幸せな家庭を築き、幸福な日々を過ごしていた。毎日毎日ダラダラと生きる。部屋にいる知らない女を殴り続ける。ひたすら錠剤を砕いて吸引する。と、窓の外からピアノの旋律が聞こえてくる。美しい音色だ。私はどうしようもなく楽器を演奏したくなり、ハンマーを手にした。ベランダから飛び降り、知らない女を殴りつける。すぐさま響き渡る叫び声。これを録音し、一躍トップアーティストになった。長い下積み時代。支えてくれたのはいつも家族の存在だった。収入がなくとも夢を追わせてくれる妻。マネキンの娘。死んだ息子。思えば、私に家族などいなかった。私は気が付くと惨めなホームレスになっていた。非力なホームレスだ。女の爪を剥がすことすらできない。しかし、赤ん坊を殺すことはできた。私は商店街を歩く女が押している乳母車を全力で蹴飛ばした。すると乳児が転がり出たので助走をつけて踏みつけた。刹那、響き渡る歓声。拍手喝采の嵐。絶叫のオーケストラ。目が覚めると私は暗く生臭い独房の中にいた。鉄格子で遮られた小さな窓の外からピアノの音が延々と流れ込んでくる。不協和音のみで完成された絶望的な音色だ。常に吐き気を催し、ゲロを吐き続けた。孤独に包み込まれ、不安が途切れることはない。全身が痒く、手足は常に痺れている。私は不幸だ。私が一体何をしたと言うのか。悲しみの淵、私は幸せとは何かを考えていた。幸せとは、幸せとは、

きょうあったこと

 

 

きょうはこうえんに行きました。あんまりおぼえてないけどさむかったです。おじいさんがいました。おじいさんなのでもうすぐ死ぬと思ったのでかわいそうだなあと思いました。アリさんをたくさんつぶしてあそびました。楽しかったです。バッタをペットボトルに入れてふりまわしてもあそびました。なおちゃんやりょうちゃんと石をなげてもあそびました。やきゅうがへたなのでぼくにたくさんあたりました。なおちゃんはぼくのじてんしゃにのってかえりました。きょうもだれかにみられていました。きのうもきょうもだれかにおいかけられています。とてもこわいのでけいさつにそうだんしました。でもけいさつのおにいさんはびょういんに行けといいました。ぼくはひざをすりむいていたけどいえでおくすりをぬればなおると思ったけどふしぎだと思いました。ぼくはなんでびょういんいにいくのかはふしぎだと思いましたけどあたまから血がでていたのでいたかったのでびょういんに行きました。せんせいはあたまのびょういんに行けといいましたけどあたまのおくすりをもらったけどふしぎだと思いました。ぼくはがっこうにいきたいけどだめだといいました。ままはぼくをあまりがっこうや外につれていきません。ままはあまりぼくといっしょにいるところがほかのひとがみるのがいやだと言いました。ぱぱはおしごとをがんばっているのでずっとかえってきません。まどに石があたってきてとてもうるさかったです。まどをあけるとなおちゃんやりょうちゃんが石をなげていました。ぼくは21さいになりましたがともだちがいっぱいいて楽しかったです。

メリーゴーラウンド

 

 

 

 

 

今日の夢での魔術では、雪灯籠がそこら中。月明かりに突き当たり、月夜烏もお祭り騒ぎ。夜顔夕顔夜会草、森羅万象雪の下。鎧を纏った雪解けの、革命家の群れが燃え盛る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二月二十八日のこと、私は、もしくは彼女は、堕落したマルセイエーズと朽ち果てた讚美歌をうたい、かわいいお洋服に火をつけて、警察官を撃ちながら、ガラスを割ってお買い物。盗んだものを両手いっぱいに。グランドピアノは重くって、だから燃やしてバラードを弾いたの。歌わない小鳥は殺してしまえと、言ったのはきっとお父さん。二月二十九日のこと、死者の船では、腐った骸骨から血が流れるの不思議。私は柱に釘付けされて、そのまま大洋に流れて。あなたは寒いと微笑んで、それに水も冷たくて、でも海よりも大きな希望が、どこかにきっと、ないかもね。二月三十日のこと、排水口に血は流れ、道端には少女が吊られてる。悲しくて、氷のように冷たく、指先で弾くとポロポロ零れ落ちる。冬休みが終わらなくって私ちょっと退屈。春を待ってる。窓の外を眺めながら。雪の上に書いた文字も、雪がまた消すの。濡れてうつむくスカートの裾。消え続ける人々。二月三十一日のこと、これまでの日々の走馬灯。血に染められた雪原と、走る機関車の模型。晴れたら呼吸しよう。もしも二月が終わったら、私たちは何処へゆくのだろう。ピクニックでもしようか、メリーゴーラウンドを探そうか。二月三十二日のこと、どうしても目を塞いでしまう。春も、昼も遅すぎる。私は誰を想っているの。私は誰なの。元気な犬の声が聞こえてくるまでパズルでもして過ごそうか。真っ黒なピースが散り散りになっている。いつまでこんなところにいるのだろう。音もなく落ちる雪は、窓の外にあるのかもしれないし、ないのかもしれない。目を塞いでばかりで、血液と爛れた死体と永遠に訪れない春と人殺し。首吊り。嫌だよねこんなの。

ロウバ・ボクサツ・ボーイズ

 

 

雪が降っていたので老婆を撲殺した。ところで、コンビニに美しい女性がいた。しかし、全く関わることはなく私はそのまま死んでいった……

 

───第二章───

死んでから、壁の穴が恋人になった。ある日、通行人に唾を吐き続けていると、突然ヤバくなって死んだ。せせらぐ川の上に雪片が落ちて消えてゆく様子をずっと眺めている。雪が落ちてくる。全てを白に塗り替えながら、どこにでも落ちてくる。誰も雪から逃れることはできない。故に、老婆を撲殺した。明くる日、線路の上に散らばった肉片を拾い集めて肉屋に売りつけていると、老婆を撲殺してしまった。私は胸を躍らせながら店をオープンした。心機一転、この店を大きくして地域住民に貢献し、大金持ちになるぞ。老婆を切り刻んで肉片を店で売ったが悪臭が酷すぎて店は潰れた。絶望の淵。パイロットになった。大型旅客機に客を千人のせて、適当にでかいビルに突っ込んで死んだ。雪は降り続く。粉々になった肉片の上にも雪は積もり、全てを消し去った。意気揚々と街へと繰り出したが、視界に老婆が入った。あまりに醜く、胃の中身を全て放出してしまう。老婆、撲殺。悲しくなって自殺してしまった。明くる日、ゴミを漁りながら有り得ない量のゲロを吐いていると、空に虹が架かった。さて、高級ホテルのバイキングディナーに潜入。全裸になって排泄する。ホテルの上にも雪は降る。何もかも消し去ってくれる。散歩する犬の毛先も、ほんのり白くなる。犬の首を切断する。雪が降っている。当然、老婆を撲殺する。真白な雪の上に老婆の血液で色を添えるのだ。しかしその上にも雪は積もる。どんなアートも消し去る。やっと架かった虹も掻き消す。その度に私は、老婆を撲殺。冷たい空気が霜焼けに沁みる。老婆の腹を切り裂いて、手を突っ込む。後、街中を放火して回った。燃え盛る街。老婆だけが逃げ遅れ、死んでゆく。老婆だけが死ぬ。火の上に落ちようとする雪片は、空中でふっと消えてしまう。私は怒り狂った。老婆を撲殺して雪の上に絵を描かなければ。空の上まで届く、美しい絵を。しかし老婆は既に絶滅していた。私は悲しくなって死んだ。コンビニに美しい女性がいた。しかし、全く関わることはなく私はそのまま死んでいった……

 

───第三章───

釣りをしようとしたが街は凍っていた。私は発狂してビルの屋上から飛び降りて死んだ。なるべく高いところから落ちて消えてゆきたいだけであったのだ……

腐ったアイスクリーム

 

本日五度目の朝飯を食いながら窓の外に中指を立てていると、ランドセルを背負った少女が右端からフレーム・インしてきた。同じ少女が左端から右端へと流れてゆくのを二度目の朝食の時に見ていたので、少女がゆっくりと往復、ないし単振動をしているということがわかった。永遠にだ。彼女は永遠に窓の外にある道路を単振動している。私はテーブルの上にあった皿や、皿の上にあった食パン、食パンの上にあったマーガリン、マーガリンの上にあった雲、雲の上にあった木星木星の上にあった星空などを全てゴミ箱に捨て、首を吊った。壁にカレンダーが掛かっているのが見えた。今日は2017年13月615108日だ。そうだ日記をつけよう。私は死にながら、その日にあったことを思い出していた。ある日、緑茶で爪を研いでいると、コロンビアの娼婦が本初子午線をプレゼントしてくれた。綿棒でそれを蹴っていると赤ん坊が紅葉しヤモリが暴落した。彼女は学校に向かいながら陣痛を起こした。コンクリートが溶けるほど暑い夏の日のことだ。彼女は慌ててスプーンを折り曲げると、飲み込んだ。どんな赤ちゃんが生まれるのか、楽しみだな、と言いながら通行人は通行し、欧米人は欧米した。船は船着場を出た。夜が更けた。彼女は船から植木鉢を毎秒落とし続けた。やがて出産したものを、ナイフとフォークで丁寧に切り分け、釣り針の先に括りつけた。彼はタバコを吸いながら、海の中を旅している。それからサメに食べられ、死んだ。俺は諦めきれない。絶対にこの会社を成功させ、億万長者になってやる。早速俺は資金集めのために空き缶を拾い、街頭で演説した。それから株を育て、老婆に投げ続けた。医者にはすぐに治ると言われた。スカートが揺れ、波が押し寄せた。クジラが千頭打ち上がり、月が赤く光った。妊娠検査薬を脇の間に挟み、朝を待った。どこかの知らない誰かが必死に爪楊枝を立てる練習をし、瓶に火薬を詰めている。電光掲示板の光が消え、黒い雨が絶え間なく降り続く。それは夢の中にいる彼女の白いワンピースだろうか。

理想の彼女

 

 

彼女はステンドグラスを通った色とりどりの光を全身に浴びながらステンドグラスの破片を全身に浴びた。彼女は死んだが、彼女の死を誰も悲しまなかった。彼女はファミレスに大型犬の死体を持ち込んだ日から精神科に通わされていた。彼女は日頃から全身にマーガリンを塗っていたため、野良犬や野良猫、ハトや千種の虫たちがいつも彼女の周りに集っていた。しかし彼女の体に少しでも舌を接触させると、そのあまりの不潔さにどんな大型犬やアフリカゾウも忽ち死んでいった。九つ目の精神科から追い出された日、彼女は完全に孤立した。そのあまりの悪臭から、彼女の家より半径一キロメートル以内は避難区域に指定された。彼女への生活保護は途絶え、水道、ガス、電気も全て止められてしまった。新聞配達員の若者もヤクルト売りの中年女性も彼女の家に辿り着くことは出来なくなった。彼女が百メートル以内にいると、人間はあまりの悪臭によって一秒以内に死亡し、灰になってしまうのだ。彼女の放つ臭いは牛と豚千頭分の死体と新鮮な生魚と生ゴミと全世界に生息する馬の十年分の糞を一度に同じゴミ収集車の中に詰め込んだようなものだった。人々は彼女を恐れ、世界規模のニュースになった。自衛隊や米軍も彼女の前には無力であった。上空から攻撃しようとするも、彼女の真上に差し掛かる前にどんな戦闘機も墜落した。世界中の軍艦が日本の近海へ集っていたが何もできなかった。彼女の悪臭は日に日に酷くなった。北関東全域が腐敗し立ち入ることができなくなり、二百万人の人間が死んだ。そしてその範囲はついに首都圏にも差し掛かろうとしていた。国際会議が開かれすぐに決断が下された。米国最大の核爆弾を彼女の家に落とすというものだ。国民も大多数がこれに賛成した。反対しているのは脳の腐った老人だけだ。政府は核を落とすことに反対した老人を片っ端から処刑した。そしてついに決行の日となった。全日本国民が心から待ち侘びた日だ。核が落ちる様子は全国でテレビ中継されることになり、誰もがテレビの前で日の丸の旗を振った。中には涙を流しながら喜ぶ者もいた。カウントダウンが始まった。街はお祭り騒ぎだ。大人も子どもも朝から酒を飲み、シャブを打った。世界中の人間が夢に見た幸せがもうすぐ訪れる。眩しいほどの青空に見事なキノコ雲があがった。それから爆風が世界中を駆け抜けた。人間はひとり残らず死んだ。日本列島は沈没し、他の国も一面焼け野原になった。誰もが夢見た理想の世界だ。とある近所のクソガキが落ちている石を爆弾に見立てて投げた。彼女はステンドグラスを通った色とりどりの光を全身に浴びながらステンドグラスの破片を全身に浴びた。彼女は死んだが、彼女の死を誰も悲しまなかった。彼女の死体は強烈な悪臭を放ち始めた。

キリン

 

 

世の中には様々なキリンがいる。

失恋して涙を流しながら餃子を焼いて余った皮を横断歩道に描いてある白い線の上に等間隔に並べなるべく白線の内側を通るように自動車を運転しボールを追いかけてきた子どもを正確に轢き殺し対向車が直進してくるタイミングに合わせて右折し横断歩道をゆっくりと歩く杖をついた老婆を吹き飛ばし海で釣ったタコをオフィス街のビルの窓に貼り付けて歩き動物園にいる劣等動物たちを捕獲し線路の上に並べ切断された頭から目玉だけを取り出し串焼きにしたものを桜まつりの屋台で売り稼いだ金で国家を買収し黒人をひとり残らず処刑し大統領の持つ核爆弾のスイッチを連打し海の中に沈んだ列島ではマグロが空を飛びイカがスーツを着て出勤しアナゴが大学で授業を受けヤドカリが失業してホームレスになり犬や猫や猿や熊やあらゆる動物たちは死滅したがなんとか水面に鼻先が届き呼吸できるため生き残ったのをいいことに世界を征服し月曜から日曜まで毎日酒を飲み麻雀競馬パチンコカジノなど全てのギャンブルに手を出し週末はエイとセックスしこの世の全てを手にいれたキリンや、くびのながーいキリン。

9月2日

 

 

これは日記なので当然毎日更新され、その日にあった出来事が記録されるものである。

 

9月2日

ひとりでビアガーデンに行った。田舎の小さなホテルの屋上で夏季のみ営業しているようだ。「アサヒビール」「一番搾り」などと書かれた提灯が柵と壁に無造作に張り巡らされた電気を通すコードに括りつけてあり、それと申し訳程度の月明かりだけがテーブルを照らしてくれる。提灯はビールではないのに、おかしな光景だ。客は26人、私の他にひとりで来ている中年男性がひとりいた。数少ない私が食べられる野菜のうちのひとつであるフライドポテトと、焼き鳥(おそらく鶏の腿の部分を焼いてタレに浸したもの)を注文した。注文もしていないのにビールはすぐに運ばれてきた。涼しく風もなく、夏が終わり秋の入口が見えるか見えないかという気候で、屋外で酒を飲むには最適だ。遠くの空から轟音が聞こえ、夕立かと錯覚したが、小さな火花が街の灯の隙間に打ち上がるのがぶっきらぼうな柵に取り付けられた簾の間から見えた。机の上に雑に置かれた中型犬くらいの黒いラジカセから男と女が交互にラップ調の歌を歌う趣味の悪い音楽がずっと流れている。私は負けじと単行本を開き線を引きながら読んだ。読書をするには信じられないくらい不向きな環境であったが、提灯と月の明かりだけを頼りにして頁を捲っていった。イヤホンをして歩く帰り道からは月は見えず、虫の音も聞こえなかった。既に9月3日になっている。

流れて

 

 

イルカはあんなに可愛いのにどうして肉食なのだろう。彼は長い本を読み終えて、明日のランチの約束に寝坊しないか心配しながら自身の部屋、足の踏み場もないほど散らかった部屋のベッドに。それにしても海のある街に住みたかった。悪趣味な配色のカーテンを引いて窓を押し開けると風が海の上を旅してきたぴりと冷たい空気を頬に当てて僅かに醒めつつある眠気を保ったまま再びベッドに入り、ランチの約束に寝坊しないか心配しながら眠る。夢のような生活を夢の中だけでもいいから送れないものか。鈴虫だろうか。ほのかに秋の気配を感じる。喉が渇く。お茶とコーラが冷蔵庫の中にあったはずだ。いやコーラは先ほど飲み干してしまった。仕方ない。お茶でいい。出られない。鈴虫は一匹ではない。いや他の虫もいるな。なんの虫だろう。彼はある夏の日に彼女に宛てた手紙のことを思い出していた。夏の匂いはわずかに遠く、海への空想もほのかに。夢とのあいだを揺蕩う。白い斑点が浮かぶ。緑道に女の子が立っている。今にも消えてしまいそうだ。優しく手を引いて白い森の中へと誘う。湖のほとりでそっとキスをする。地平線の彼方まで引かれた線路の上をずっと走ってゆく。やがて線路は浅い水たまりに入る。靴の中に冷たい水が入り込んでくる。水しぶきを立てながら線路の上を走ってゆく。水たまりはどんどん深くなり、透明な海になる。彼は沈む。沈みながら考える。息ができる。月が近い。屋根の上。空を飛べそう。秋が近い。目の前の文字列が歪む。磯の匂いが朝食の匂いにかわる。揺蕩う。呼吸がゆったりになって、おしまい。

溶けて

    あまーいコーヒーびしゃびしゃ白いシャツはまっくろ脳内ドミノ倒しで綺麗な貝殻太陽が反射してきらきら泥の中すいすい泳ぐ子猫が森で熊と踊る血だらけで散々浜辺をてくてく歩くなんて風景が瞼の裏に押寄せてぐらぐら君とひとりで風鈴の音が響くりんりん爆音で向日葵の咲く庭に火をつけてちかちか君の瞳に映ってきらきら夜空に浮かぶ星みたいだよさらさらな髪の毛が揺れてふわふわといい匂い風が運んできてくれたんだ丘の上でみた綺麗な景色がちかちか手のひらに浮かんできてしとしと降り出した雨に悲しくなってしくしく泣いてしまってからからと転がる瓶の中のビー玉寂しくて放り投げてばらばらになったガラス街灯の光を浴びてくらくら頭の中ふらふらになって君のことがあまりにも大切になってどきどきと走る鼓動とぐしゃぐしゃになった胸の奥まるでてるてる坊主の頭の中みたいだねざーざーと降り出した雨も止めてくれるかい

八月のゆるふわ日記

 

 

    杖をついた老婆が横断歩道を渡っているのが見えたので私はアクセルを限界まで踏み込んで轢き殺した。完全なる正当防衛であった。老婆は私の視界に入り、私を殺そうとするのだ。老婆の肉片は野良犬が食べるので問題ない。しかし野良犬は私の愛車にこびり付いた老婆の血液まで綺麗に舐め取ってはくれない。そんな時、私はロサンゼルスに行き、カジノで全財産を使う。ロサンゼルスはまさに私のオアシスだ。ステージの上で踊る裸の美女にケチャップをかけて、舐めまわすのだ。 プロの写真家を目指したことがある。私はカメラに映すべき題材を探して夜の街を徘徊した。そこで路上生活者の寝顔にケチャプをかけて回ったが、私はカメラを持っていなかったのだ。世界は理不尽なことで溢れている。私が路上で若者を殴ると、教養のない若者は殴り返してくるのだ。実に不快で矛盾した出来事である。私は度々、神に問いかける。私は何か悪いことをしたかい、と。私には不幸ばかり訪れる。悪魔のような人間が現れ、私の幸せを全て奪ってゆくのだ。私は他人を怒鳴りつけたり殴ったりしたことはない。人の意見を受け容れ、温厚に生きてきた。しかし私のように真面目で、実直な人間はいつだって損をするのだ。私は一度も誰かの悪口を言ったこともない。傷付けたこともない。だがどうだろう。全ての人間が私のことを寄って集って攻撃するのだ。私はそれに耐えることしかできない。泣いて夜を明かすことしかできない。そんな時、私はビール瓶で浮浪者の頭を殴りつけるのだ。

 花屋の小娘を撲殺しよう。透明な花瓶がそう言った。海に面した花屋にはたくさんの花が並んでいる。軒先のビニールでできた屋根がつくる影にも入りきらないくらいのたくさんの花だ。黄色いのや、紫色の、青いのや、なに色でもない色の、様々な色の花が、様々な形の植木鉢に入って、海からやってきた風を浴びて揺れる。風は砂浜からしゃぼん玉を運ぶ。迷い込んできた透明な球体は、日の光を屈折させて虹色に染めると、揺らしたり光らせたりして遊んでから、花びらの上でぽんとはじけて消えた。花びらのどれもが淡い色をしていて、太陽の光をそっと乗せると、そのまま溶かして飲みこんで、裏側から吐き出している。そんな軒先の端で、ガラスの花瓶がひとつ、赤い花を一輪くわえていた。ほんの少しだけ青を帯びたガラスは液体を含んでそれをほのかな水色に染めている。お腹のところがふっくらと膨らんでいるが、口はすぼめたように細く、そこから太陽の方へ緑色の茎を突き出して先端で赤い花を開いていた。木箱の上にのせられた花瓶と同じ高さまで視線を下げると、黄色や紫色のぼやけた花が、液体の中に浮かび、わずかに揺れる。その花瓶は割られなければいけない。花がそこにあることは許せなかった。赤い花は美しくない。木箱の上にずいぶんと黒い影を落としていた。それは透明でない証拠である。美しいものとは透明なものであり、透明なものが唯一の美しいものなのだ。そして美しいものは、はじけて砕ける瞬間こそが最も美しい。その花瓶は割られなければいけないのだ。植木鉢を蹴飛ばした。その陶器と革靴が衝突する音。その粘土細工とコンクリートが摩擦する音。その穢れた物体に不規則な線が引かれ軋轢する音。すべてが忌々しく吐き気がした。その音を聞いてか、花屋の奥から店番の女が軒先へと歩いてくる。泥のついた靴。黒色のズボン。緑色の前掛け。濁った眼球。後ろでひとつに束ねた髪は、太陽の光を反射すると赤くみえた。処女ではない。亀裂の入った植木鉢は地面を転がり、泥はばら撒かれ、紫色の花が何本か、それに埋もれ穢されていた。女はそれを確認してから、なにか高い声をあげながらこちらを見る。花屋の小娘を撲殺しよう。処女ではないから。純潔を失った女ほど濁ったものはない。この世で最も醜い存在だ。小娘は醜悪な顔面を更に引き攣らせた。穢れた陶器を蹴飛ばしたときと同じように、小娘の腹に革靴で一撃を食らわせると、後ろに倒れ手をついた拍子に植木鉢を倒し、泥にまみれてますます憎い。それからこの女の襟を掴み、道路の海側へと引き摺る。女が手を掴んで抵抗したので、横腹のあたりに何発もの蹴りを浴びせる。すると生臭い声とともに赤く黒い血液を口から吐き出した。それがあまりにも穢くてついに許すことなどできない。花瓶に刺さった赤い花を上から握り潰して抜き取り、右手で花瓶の口を持つと、全身を翻し、小娘の顔面をめがけて思い切り花瓶を振り下ろした。海から色のない空気が一気に押し寄せる。それが開いた手のひらから赤い花びらを一枚ずつ剥がして空中へと舞い上げた。花瓶は粉々に砕け、球状に咲く。花瓶の中では水色だった液体は色を失い、はじけて無数の透明な球体へと姿を変えた。赤い花びらは空気に浮かび、踊るように揺蕩い、そのうちの一枚が太陽に重なって、確かに光を貫通させ橙色に輝く。ガラスの欠片の不規則で不揃いの面は、交互に太陽を反射させて光り、それが不意に眩しくて目を細める。球状の液体はガラスの欠片にぶつかると更にはじけて分裂し、花びらにぶつかるとその表面に張り付いてそのまま風にのって旅に出た。その風に乗ってきたしゃぼん玉がはじけてなにも残らない。海の表面は太陽の光を反射させ燦々と煌めく。女の髪は水に濡れうっすらと赤い液体も滲んでいる。ガラスの欠片は地面にひとつずつ落ちていって、それらは白く濁っていた。そのうちのひとつに赤い花びらがそっと重なり、そこに水で薄められた血液がひとつ落ちて浮かんだ。その半球は透き通っていて僅かな光の屈折をもって花びらの表面にある凹凸の手触りまで明確に伝えてくれる。やがて半球は風に揺らされ、花びらの表面を歪めながら滑り落ちていった。女は静かに横たわる。一瞬のうちに無限の快楽を味わったのと同時に深い絶望の底に落ちていた。膝に痛みを感じる。気付くと地面に跪いていた。片膝を立て、刺さっていたガラスの欠片を抜くと赤く黒い血がべとりと付着していてそれはもう光を貫通させることができない。背筋に刺すような視線を感じた。振り向くと小娘が大きな植木鉢を掲げてこちらを睨みつけていた。その眼には涙が滲んでいる。小娘は目の前で掲げた植木鉢をこちらに落とした。頭部に鈍痛が響く。直後に砕けた陶器の破片と泥が落ちてくる。その隙間から小娘の目から透明な液体が落ちて空中ではじけるのが見えた。

 空は橙色に染められていた。全身から鈍い痛みを感じる。どうやら花屋の前の砂浜に落とされたようだ。右手には黒く濁った血液がべとりとついており、そこに泥がこびりついている。慌てて白い砂の中に腕を突っ込むと、指先に固いものがあたった。掴んでひっぱりだしてみると、それはラムネの瓶である。それが透明だったから、両手で握って自らの頭に全力で叩きつけた。美しき痛みが走る。宙に舞うガラスの欠片たちは、斜めに射す光を浴びて煌めき、砂の上に落ちてゆく。そのなかにひとつ、透明色の球体があった。それを太陽の方へかざしてみる。太陽の光は昼間よりも多くの空気をくぐって、橙色の光だけを届けてくれる。きっとこれが本当の太陽の色なのだ。この空や風こそが、最も透明なものなのかもしれない。海の表面もそれを反射して橙色に揺れている。球体の中には海も雲も空も、遠くで浮かんでいる船も、全てが逆さまになって閉じ込められていた。それを力いっぱい海へと投げる。透明色の球体は水面に落ちて、それからまた別の球体が宙に浮き、いちばん高いところでぱっとはじけた。

不味い麺を啜りながら

 

  行きつけのラーメン屋で微塵の興味もない野球中継を眺めながら伸びきった麺を啜る。金曜の夜だ。隣に座っていた知らない髭面のおっさんが話しかけてきた。俺の食ったラーメン代、払っといてくれ。そいつはそう言ってからのそのそと店を出ていった。俺は残りの不味い麺を啜って、汁を飲み干してから立ち上がる。いつもと同じラーメンを食ったのに、なぜかいつもの倍の代金を払うことになった。店を出てから、俺は考える。どうして俺はラーメン二つ分の代金を払ったのだろうか。北の方向から吹いてきた風が髪を揺らし、耳に掛けていた毛が目を覆った。思えば、俺は今日、ラーメンを二杯食ったのかもしれない。

  窓から夕日が差し込んでくる電車に揺られながら、文庫本のページをめくる。紙がチカチカして読みにくい。これは学生や、若い女性に大人気らしい。しかし、この本のどこが面白いのか全くわからず、ひたすら考えていた。小難しい文体に、意味ありげなフレーズ、曖昧で遠回しな表現。俺は楽しむどころか、理解することもできなかった。悲しくなって泣いてしまった。世界中に、自分だけただ独り取り残されているような気分だった。

  行きつけのラーメン屋で微塵の興味もない野球中継を眺めながら今日も縮れた麺を啜っている。金曜の夜だ。隣には髭面のおっさんが座っていて、自分と同じラーメンを啜っていた。そこで俺はポケットから文庫本を取り出し、適当なページを開いてからおっさんに見せた。なんだ、このつまらない本は。おっさんはそう言った。この本の意味がわからないんだ。何が言いたいのかさっぱりわからない。と俺は言った。この本に、意味なんかねえよ。おっさんは吐き捨てる。どうしてそんなことが言えるんだ。と会話を続ける。これは、俺が書いた本だからだ。全部適当さ、意味なんかない。いいか、文学で伝えたいことなんかないんだよ。だって。それなら、どうしてラーメンなんか食べているんだ。おっさんは最後に残った麺を啜ってから立ち上がった。ラーメン代、払っといてくれ。そう言っておっさんはのそのそと店を出ていった。俺は残りの不味い麺を啜って、汁を飲み干してから立ち上がる。今週もいつもの倍の代金を払うことになった。店を出てから、俺は考える。どうして俺はラーメン二つ分の代金を払ったのだろうか。北の方向から吹いてきた風が髪を揺らし、耳に掛けていた毛が目を覆った。思えば、俺は今日、ラーメンを二杯食ったのかもしれない。

退屈で孤独な就活日記

 

  僕は臆病者で、劣った人種だ。誰も僕のことを相手にしないし、目も合わせない。弱い人間である僕は、できるだけ他人の目に触れない様に細々と生きることしかできない。ある日、部屋でダンスを踊っていると、見知らぬ女が殴り込んできた。どうやら部屋を間違えてしまったらしい。ここは僕の部屋ではないようだ。見知らぬ女の部屋でダンスを踊っていた僕は、全裸になって土下座をしたが、女の心が狭いのか、若しくは全く教養がないのか、許してもらうことはできず、金銭を要求された。僕はアルバイトを始めることにした。僕はこの機会に真面目に生きて、社会に溶け込もうと考えていた。きちんと服を着て、オフィス・ビルの様な建物の扉を手当り次第に叩いた。そうして僕は一流企業の重役にまで昇り詰めた。手に持った紐は犬の首に繋げられていた。犬は前脚と後ろ脚を動かすことで前進しようとするが、僕は必死に踏ん張って全力で紐を後ろに引いた。すると犬の首が切断され、頭が吹っ飛んでいった。犬の頭はとあるオフィス・ビルの窓を突き破り、それが原因で僕は会社をクビになった。僕は再び無職になったが、犬の頭を取り返し、セメダインで胴体にくっつけると犬は息を吹き返した。どうやら頭と胴体の組み合わせを間違えてしまったらしく、バランスが悪いが、僕は独りじゃなくなった。しかし僕にはドッグ・フードを買う金もなく、再び仕事を探すことにした。僕はとあるホームレスのおっさんに雇ってもらった。行く宛もない僕を拾ってくれたこのおっさんはまるで神様の様だ。僕は道に落ちている空き缶を拾い集めておっさんに渡す仕事を与えられた。僕は水を得た魚の様に活き活きと仕事をこなした。生きているということを実感できるのだ。やがて僕は空き缶拾い界のプロフェッショナルとなり、世界中のホームレスにその名を轟かせた。事実、僕に拾えない空き缶などなかった。そうして二十年ほどおっさんの下で働いたがある日、給料が一円も払われていないことに気付いて自分から仕事をやめた。僕はドッグ・フードを買うことができず、いつの間にか犬は餓死していた。僕は泣いた。夜通し泣いた。一生懸命働いても、救われなかった。結局また独りぼっちになってしまった。僕は社会に必要とされていない人間なのだ。完全な孤独を突きつけられ、絶望の底に落ちた。