ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

メロンの味

 

路上で乞食の老婆を殴ったら飴玉を吐き出した。半透明で美しい緑色をしていた。僕はそれをポケットにいれて、ペット・ショップに向かった。ガラスを叩き割って、子犬のラブラドール・レトリバーを取り出し、抱き上げた。僕は子どもの頃、大きな犬を買うのが夢だった。大きな家に住んで、大きな犬と水遊びをする。綺麗な奥さんや元気な子どもたちがいて、のんびりと過ごす。それが今まさに、叶えられようとしている! ラブラドール・レトリバーを抱えたまま、さきほどの老婆の元へと走る。真っ黒に日焼けした肌、生気のない眼差し、ボロボロの服、ゴミのような匂い。僕はたまらなくなって、老婆を殴り、求愛した。愛してる! 愛してる! そう叫びながら老婆の服を破り、セックスを試みた。子犬が尻尾を振り回しながら、腐臭を放つ老婆の皮膚を舐めまわしている。これこそ、子どもの頃に夢にみた光景! 幸福な家庭の風景! 子どもは何人ほしい? 名前はどうする? どんな習い事をさせる? 僕はピアノがいいなあ。そんな他愛もない会話をしながら、老婆を殴りつける。老婆の腐臭で、ゲロが出てしまい、それが老婆の顔にかかったことで、ますます臭くなる。子犬がそれを舐めようとしてキショいので、子犬も殴る。ああ、僕はあなたを愛している。こんなに素晴らしい時間は他にない。美しいピアノの音色がきこえてくるようだ。老婆の唾液や血液がゲロと混ざり合い、花束のように見える。鮮やかな色彩が、風に揺れているみたい。ずっと閉じていた老婆の瞼が一瞬開いて、こちらを強く見つめた。その瞬間、僕らは本当の意味で通じあった。老婆はそれから動くのをやめ、息をするのもやめていった。それでも僕は殴り続けた。僕の、無限の愛が伝わるように! 殴る度に拳に激痛が走るが、それこそ老婆が僕に伝えてくれる、愛のしるし! 老婆は少しずつ硬くなり、冷たくなっていった。気がついたら子犬はどこにもいなくなってしまった。老婆の胸に耳を当てると、心臓が動いていなかった。騙された? 僕は、また孤独になってしまった? 僕はひとりだ! 僕はひとりだ! 僕は誰のことも愛せない! 僕は大きな犬を飼うことも、ピアノの音を聞くこともできない! 僕は泣きながら老婆の唇にキスをしてペロペロと舐めた。メロンの味だった。遠くから夕方のメロディ・チャイムと、サイレンの音が聞こえる。僕はポケットから飴玉を取りだした。ベタベタしていてとてもキモかった。落ちていく夕陽にかざしてみると満月のようにも見えて、綺麗かもと思ったけど、やっぱりキモかった。

丸山の勇気ある行動により世界は救われました

 

 

 

 

丸山が引き戸をガラガラと開けて中に入ろうとすると、老婆がいて、即座に殺された。しかし、丸山は死なない体質なので死を免れた。そこはおそらく何かの店であるが、丸山は馬鹿なのでそれが何の店なのか把握していない。丸山は服を脱ぐとテーブルの上に立ち、斧のようなものを振り回している。その時丸山は、美しいチューリップ畑を想像している……。甘ったるいキャラメルと、バッタの死骸が大量に入ったスープ……。丸山は叫びながら2トンはあろうかという巨大な老婆をただ見ている。少年時代の丸山は毎日月を見て過ごしていた。しかし少年法に守られた丸山に罰を与えることはできなかったのだ。もう誰も彼を止めることはできない……。丸山は既に巨大な老婆の手によって八度目の死を遂げている──それも壮絶な。しかしながら、丸山のその姿は完全にミッキーマウスだった。完全なるミッキーマウスと化した丸山は、怒号が飛び交う中、電気的な行列をととのえた、はなやかな行進へと向かうのであった……。それはそれとして、日本の通貨制度は完全に崩壊している。人々は自らの血液でモノを買うようになっていた。そのせいで、街中は血塗れになり、非常に生臭い。丸山は現状に一石を投じるべく、日夜全裸徘徊を行っていたのだ!  造幣局から暗殺者を差し向けられた丸山は泣く泣く戦地を後にせざるを得なかった。世界の人口は完全なるゼロになったが、丸山はもはや人ではないので生き残っていた。丸山は完全なる「叫び」になっていたのだ。完全なる「叫び」となった丸山は見渡す限りのチューリップ畑の上空を漂うのであった……。死なない体質が災いし完全なる「叫び」として永久に世界に生き続けることになってしまった丸山だけが世界の終焉を見ることになるだろう──それはこの上なく美しいものである。

 

 

 

 

 

ピンニャハ・パッパーニハについて

 

 

 

ピンニャハ・パッパーニハとはこの土地の名称で、同時にこの土地に住む神の名前である。ピンニャハ・パッパーニハはピンニャハ・パッパーニハに住む老婆の中から無作為に選ばれ、神として祀られる。選ばれた老婆はピンニャハ・パッパーニハとなり、土地で一番の大木に八日間縛り付けられ、村人から神餌を献上される。ピンニャハ・パッパーニハは人間と大地の怒りと憎しみを一身に引き受け、ゆっくりと殺される。村人たちはピンニャハ・パッパーニハを苦しめ、痛めつけることで、自身の罪を滅することができる。また、ピンニャハ・パッパーニハが大地の苦しみを一身に引き受けることで、ピンニャハ・パッパーニハの土地は天災を免れる。そのため、村人たちはあらゆる手を使ってピンニャハ・パッパーニハに痛みや苦しみを加える。しかし、ピンニャハ・パッパーニハは八日目に訪れるペヌジニの夜まで必ず生かしておかねばならない。ピンニャハ・パッパーニハはペヌジニの夜に、足と手の指先の関節から順に切断され、殺される。この時少なくとも両肩と股関節から先の腕と脚が完全に体から切り離された状態になるまでは決して殺してはならない。解体された各部位は、神の一部として村人たちに配られ、村人たちはそれを湿度と温度が高く保たれた部屋で保存した後、七日後に訪れるポンゾニィママの晩餐で食べなければならない。ペヌジニの夜までの八日間で、村人はピンニャハ・パッパーニハを決して殺さぬように配慮しながらなるべく多くの苦痛を与える。体の一部を完全に切り離す行為は許されていないが、ある程度の切断行為は容認される。村人たちは各自、ピンニャハ・パッパーニハを火で炙ったり、鋸で表面に傷をつけたり、単に殴ったりする。ピンニャハ・パッパーニハを決して殺さないために、栄養価の高い神餌を強制的に経口摂取させる他、絶えぬ流血に耐えられるように常に輸血され続け、心臓が決して止まらないように電流が流され続ける。ピンニャハ・パッパーニハがペヌジニの夜に死ぬと、七日後に訪れるポンゾニィママの晩餐の翌日に定められるピネスムスの祝祭の中で、無作為に選ばれた老婆が新たなピンニャハ・パッパーニハとなる。近年、ピンニャハ・パッパーニハでは、ピンニャハ・パッパーニハを高頻度で殺害する必要があるので、ピンニャハ・パッパーニハとなるべき老婆が枯渇する傾向にある。現在は、ピンニャハ・パッパーニハの村人はピンニャハ・パッパーニハとなり得る老婆や将来的に老婆となる女性を他の村や町、国から拉致し、村に監禁する等の工夫で老婆の絶滅を防いでいる。ピンニャハ・パッパーニハの伝統と歴史を絶つことは決して許されない。

 

 

ウサギ畑

 

 

 

 

 

ウサギ畑にユウちゃんはいた。土からウサギの耳が生えていて、それを引っ張るとウサギが収穫できる、それがウサギ畑だ。ユウちゃんはどんな物で殴っても怒らないのでハンマーで殴ったが、それからすっかりおかしくなってしまった。かなりの声量でクリスマス・ソングを歌いながら、一年中街を徘徊するようになってしまった。そのおかげで街は一年中クリスマスになって、とてもハッピーなのだ。ユウちゃんはオクラの観察日記をつけていたが、オクラなんて育てていなかったからたまげたもんだ。わたしはユウちゃんのことを毎日観察していて、ユウちゃんのことを愛しく思っている。ユウちゃんは誰からの愛情も全く受けずに育ったくせにまだ処女で、髪も染めない。おまけに人も殴らず、人に殴られる。ユウちゃんは先日駅前でクリスマス・ソングを歌っていたら少年たちから投石を受け、血を出してしまった。それでもユウちゃんは首を吊らないから偉いのだ。わたしはユウちゃんの服を脱がせてショッピング・モールを歩かせた。ユウちゃんの傷だらけのからだが、クリスマスみたいなのだ。ユウちゃんのオクラの観察日記には、オクラの成長や、自分のことが記されている。しかし、ユウちゃんはオクラの色すらしらないのだ。オクラの色すら忘れてしまったユウちゃんは、オクラの観察日記にウサギ畑のことや、クリスマスのことばかり書くようになった。ユウちゃんには街の全てがピカピカと光って見えて、電飾に包まれているのだ。ユウちゃんは学校にも来なくなって、家族のいない家に帰るようになった。ユウちゃんは何をされてもずっと笑顔で、泣くときも笑顔だ。ユウちゃんを叩いても切っても焼いても、ずっと笑顔だ。ユウちゃんは昔ケーキ屋さんになるのが夢だった。かわいいクリスマスケーキをつくって、蝋燭を立てるのが夢だった。ユウちゃんは絵を書くのも上手で、よくオクラの絵を書いていた。でも今のユウちゃんはオクラの色すら知らない。クリスマスの日に、たくさんの雪が降った。ウサギ畑も、雪に埋もれてしまった。ユウちゃんはオクラを心配してウサギ畑の雪を掘っていた。でもユウちゃんはオクラの色をしらない。わたしはユウちゃんにガソリンをかけて燃やした。その日から街にクリスマスはこなくなった。でもそれは、わたしにもこの世界にもまったく関係ないのだ。

 

 

 

 

 

マスカット・キャンディ

 

 

 

 

 

 

君が死んだときの瞳の色を見たいだけなんだよ。死んだときに君の瞳の色が水曜日みたいなグリーンだったらいいなと僕は思うんだよ。マスカットをすり潰したみたいな水曜日色が君の死んだ瞳の色だと思うんだよ。そしたら君は果実の仲間入りなんだよ。欲を言えば食べたいし咀嚼を通じて君に触れたいよ。君に触れるために君には果実になってほしいよ。君が果実になったらピアノで鳴らしたラの音みたいに青みがかったグリーンの瞳を見たいんだよ。浴槽に白ワインをたっぷり注いで朝になる前の太陽をいくつも浮かべて君を沈めて溺死させたいよ。君が果実ならバニラアイスと一緒に食べたいよ。君の瞳が砂糖菓子みたいにベタベタだと嬉しいよ。君の瞳はきっと真昼の夢みたいな色してるよ。ただ君が死んだときの瞳の色を見たいだけなんだよ。君の瞳ってば、何色なのかな。

 

 

 

 

 

 

ストロベリー・ショートケーキ・スイート・ラブ・ストーリー

 

 

 

僕は老婆への脳姦でしか射精できない人間だが、恋くらいしたっていい。ケーキ屋の女はワインみたいな色の瞳をしていて、常に笑顔でいる。僕が買ったケーキを素手で持ち帰ったり、店の前で捨てたりしてもずっと笑っている。他人の笑顔をほとんど見た事がない自分には奇妙な光景だった。僕は毎日そのケーキ屋でタバコを注文するのだが、いつも売り切れで買えたことが一度もない。だから僕はここに通うようになってから全くタバコを吸えていない。全てあの女のせいなのだ。僕は毎日ケーキ屋に通いながら女に対する憎悪とそれに付随する不可思議な感情を大きくしていった。女は僕を馬鹿にして笑っている。ケーキがタバコの代わりになるはずがないのだから。月が満ちかけて乾いた夜に、やたらと街が浮ついて、電球が木々を飾り、絶えぬベルの音や、肉の焼ける匂いで溢れていたからあの日はきっとクリスマスだった。いつものケーキ屋には大勢の客がいた。女は赤い服を着ている。僕は人々を押しのけていつものようにタバコを注文した。するとその日の女はポケットから裸のタバコを15本取り出し僕の手の上に置いた。いつものようにワイン色の瞳をして笑っている。僕はすかさず女を殴り、ケーキと一緒に連れ去った。人は恋に落ちる時、脳を見たいと思うのだ。家に連れ込み、何度も女を殴った。生きているかはわからない。恋に生死は関係ないのだ。まず眼球を取り出しワイングラスに注いで飲む。女の頭を割り、脳を取り出す。僕はこの無限の快楽で永久の幸福を手にすることができると信じていた。しかし女の脳に陰茎を挿入しても、予感していたような快楽を得ることはできなかった。その脳には美が欠落していて僕を幸福せしめるのに十分な密度を持っていなかった。一瞬にして絶望の底に落ちた。僕は血まみれの脳を握り潰してケーキの上に乗せた。それから久しぶりのタバコに次々と火をつけ、一度吸ってからケーキに差していった。美とはまさしく甘い絶望で、恋というものはとにかく甘くて幸せなものなのだ。ちょっぴり苦味があるけれど、甘く甘くあるべきなのだ。僕はその日初めてショートケーキの中で射精した。女の脳が混ざった甘い甘い恋するショートケーキは老婆の脳に似てて腐り切っていて絶望まみれでスカスカでグチャグチャでキショいのだ。

 

 

 

ミメー

 

 

 

 

白くて巨大なバッタが東京の街をぐちゃぐちゃに壊している。飛び跳ねる毎にビルを崩し、橋を落とし、地面を割っていく。口から赤い液体を吐き出し、街中を飲み込んでいく。ユウちゃんと朝まで散歩する予定だったが、急遽世界が終わるのを眺めながらの決行となった。ユウちゃんは髪も染めたことないとてもいい子だ。ユウちゃんは笑うのも怒るのも苦手で、泣くのも苦手だ。世界は終わりそうだが、キョトンとしている。ふたりでコンビニに入ってチョコレートをひとつユウちゃんのポケットに忍ばせ、半ば強引に万引きをさせた。ユウちゃんは少し悪者になった。夜は更けていくばかり。正義のヒーローは現れず、街は壊されていくばかりだ。ずっとこの街に住んでいるのに、ノスタルジアの欠片もない。人がたくさん死んでいて、血がすごい。あらゆる場所が燃えていて、やや暑い。ユウちゃんも服の胸のあたりを掴んで、パタパタしている。ふたりで思い出の校舎の屋上に向かうことにした。多分割と頑丈なのだ。私は自転車を盗んで、ユウちゃんを荷台に乗せて共犯にした。逃げなきゃだから、ということにして。通学路にしてはやや燃えすぎている道の上でペダルを漕いで、アイス食べたい、などと言う。バッタが吐いた体液が街中を赤く染めていく。ようやく校舎の屋上に着いた頃には、夜が少しだけ明けかかっていた。背の高い建造物はほぼ全てバッタに壊され、平坦な地になっていた。初めて東京の地平線を見た。太陽が少しずつ昇ってくる。真っ赤になった街はぜんぶ燃えていて、空まで赤く染めていた。それはまるで夕暮れみたいだった。未明だが。ユウちゃんは泣いていた。ユウちゃんが泣いているところを初めて見た。ユウちゃんはポケットからハンカチを取り出して涙を拭こうとしたけど、ドロドロに溶けたチョコレートがこびりついていてキモかった。世界は終わったが、ユウちゃんは笑った。

 

 

 

 

呻き

 

 

 

二階の部屋の白いカーテンからレモンの香りと一緒に入ってくる光の乱調と雑音、それが歌声でもあった。君がパンを水に浸して食べるのが儀式みたいだった。その意味を知った者は殺されて、水に濡れぬまま溺れる。真っ暗な海の上でたった一人でボートを漕いでいるような気分の日没後、ポケットにナイフを忍ばせた夜の宴会。どこかで旅人と会った日の夏の大気に浮かぶ雲みたいに、化膿していく僕の破綻して錯乱する神話。自転車と麦わら帽子だけの美学に撒いた雑草鎮静剤と青白い円環のループ。君があの月を何に例えたのかを忘れ、傘とレインコートでは耐えられない呻き声が鬱屈なサーカスみたいに頭の中に降り続けている。

 

 

昨日の夢

 

 

 

 

荒れた海の上に大きな色とりどりのバルーンが無数に浮かんでいる。夜中に食用カエルと話し込んでいたら、腎臓を落とした。僕はそれを食べて、彼女を探した。彼女は飛び降り自殺を七度試みたせいで、多少問題がある。自由を恐れて、誰かに自分を束縛させようとする。水色のボールがバウンドしてる。踏切は簡単にくぐれるし、死は近い。かわいいピンク色の服は、空に映えるように。白いワンピースは燃えるとき映えるように。孤独は群集の中にしかない。蛆虫が死体に群がっているけど頑張れば食えそう。ガチャポンしたら人の耳が出てきた。人魚がいたら断面を見たい。彼女を探してる途中で、包丁でキャッチボールした。生きたくても生きられない人もいるらしいので、死のう。毎日恋の話ばかりしている。相対性理論は全否定って感じで、月で真夏の恋したい。空を飛ぶのはお前らだけじゃないって、馬鹿な鳥にわからせたい。どんな穴を覗いても彼女はいなかった。落雷で調理費が浮いた。血まみれのバターで味付けたゾウ丼と、アリの死骸です。神に近付こうとして、深爪した。パイプオルガンの音が鳴り止まない中ジェットコースターに乗って黒くなった死体をいくつも見せつけられた。気付いたらクリスマスだった。月は南半球にあるので、真夏にクリスマスがくる。彼女は空中にいた。バルーンで首を吊って浮かびながら死んでいった。彼女の目は真珠みたいだなんて言えない。ゴキブリの羽みたいに黒光りしていた。トナカイが彼女の周りをぶんぶん飛び回っていた。夜空の星が赤いセーターにからまってうざそう。プレゼント梱包用のリボンを頭に巻いていた。固結びだったが。ジングルベルの大群が空を覆い尽くして鼓膜をやった。彼女がよくゲロをかけてきたことを思い出した。ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル。空を泳ぐときに平泳ぎなのがあほらしかった。全てが腐っているはずなのに、焼きたてのグラタンプリン七面鳥パフェみたいな匂いがした。トナカイじゃない、これシカだ。そんなことを言いながら彼女は絶命していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス

 

 

 

橙色の暖かい光が部屋の中を満たしている。お酒の瓶がずらりと並んでいて、妖艶に光ってる。ここにはクレープもあれば、ワインもある。ここにないものはきっと世界のどこにだってない。お肉をジュージュー焼いている音が聞こえてくる。きっとこんなに大きな七面鳥の丸焼きだよ。雪が降ってる。きっと僕たちのためだけに降ってる。夜だってのに街灯やイルミネーションでこんなに街中キラキラだ。とりあえずキラキラさせとけってな感じで。きっと空の上からでもわかる。銀河の外からでもわかる。あんなに大きな木が、枝の先まで全部光ってる。蝋燭の火のひとつひとつが、みんな僕たちを祝福してる。スキップしたくなるような音楽が、今日は街中、いや森の奥までずっと夜通し流れてる。赤い服のひとたちがステージの上でラッパ吹いてる。ああ僕たちのためにだよ。ケーキもある。こんなに大きな。チョコレートもある。クッキーも。おばあちゃんがパンもくれるよ。あらゆるものがぜんぶ光ってて眩しいくらいなんだ。今日だけはシャンパンを飲んでもいいんだ。ママには内緒で。メリーゴーランドは我慢だよ飲酒運転だから。教会で歌を歌うのもいいけど、今日はきっと神様より偉いぞ。温かいポテトとこんなに大きなビール。みんな靴下を吊るしているけど、僕は今年は眠らないんだ。それにきっと僕らにはもう朝はこない。どこまでも澄んだ冬の夜空で星になるんだ。

 

 

多分、海を見てた

 

悪い夢をみてうなされながら起きた瞬間から、ピンクネオンの安っぽいホテルから一人で出てくる女をぶん殴ろうと決めていた。錠剤を二十四錠食い、タバコを二十五本吸いながらまだ見ぬ女に宛てた手紙を書いて、夜を待った。

 

拝啓。はじめまして。あなたにとって、わたしは何なのでしょう。わたしは恋人なのでしょうか。いいえ、そうでないことはわかっています。わたしとあなたは互いに愛し合うことなんてできない存在ですものね。それに、わたしとあなたは今はじめて出会ったばかりですから。しかし、あなたもわかっているように、わたしとあなたは本当は互いに愛し合うべき存在なのです。なぜなら、あなたはあなたであり、わたしがわたしであるから。わたしが愛すべきは処女であり、そして、あなたは処女です。あなたがたとえ肉体の快楽を知っていても、誰かと結びついたことがあったとしても、あなたは本当の愛を知らず、即ちあなたは処女であるはずです。そしてわたしも同じです。だから私たちはお互いの無垢と無垢を永遠のものにするために、互いに愛し合うべきなのです。わたしたちは今まで出会うことができなかったばかりに、愛し合うことができなかった。しかし今、処女であるあなたとわたしは初めて出会い、愛し合うことができるのです。そのうえで、わたしと肉体関係を持ちましょうなんてことは言いません。恋人になろうとも言いません。ただ愛してると囁いてほしいのです。

 

手紙をなるべく丁寧に折り、ポケットに入れ、馬鹿みたいに騒がしい街へ向かった。愛を求めて愛のない通りを彷徨い、殴るべき相手を探した。街灯の揺れ。同じフレーズを繰り返すギター。各種金属の錆。ふらつく人間たち。太った黒いネズミ。錯乱。渦。道化師になれない。寒いし、吐き気がする。黒い男たちが誰かを傷付けているようにも、世界を救っているようにも見えた。手を繋ぐ男女。どうせ刺青がある。喉を通った胃液たちが、コンクリートの上で各種食材をゆっくり溶かしている。女がたくさんいて全員を殴り殺したいが、私を愛してくれそうにない。汚い命。海鳴り。ピアノは脳内でしか鳴っていないようだった。乾いた排水溝。波にのまれる錯覚。地面が柔らかく、歪む錯覚。割れた酒瓶。蛆みたいな虫たち。陰湿なホテル街。切れかけのネオンの明滅。彷徨。意味の無い言葉を叫んでいる。左右に頭を何度も振る。拳を握ったり開いたりする。目を思い切り開いて周辺を見回す。津波に襲われてるみたいだ。霧がかかったような街。月が点滅しているように見える。石をわざわざ拾って捨てる。唾を吐く。安っぽいピンクネオンの看板。レンガに爪を立てる。歯を突き立ててみる。頭を思い切りぶつけてみる。ふらついて空を見上げる。夜空で比重の違う色水たちがかき混ぜられている。声を上げる。唸るような風の音。世界に自分しかいないと感じる。耳鳴り。コンクリートの硬く冷たい感触。涙は出ないが泣き声を上げる。死にたいと感じる。嗚咽だけ。刃物なし。濁流に流される感覚。寒い夜。ピンク色の光。女がひとりで出てくる。顔面を殴る。もう一度殴る。もう一度殴る。肌は白い。顔面を殴る。高い声が聴こえる。ふらつく。倒れる。何度も顔を殴る。馬乗りになる。覆い被さる。殴る。血液が流れる。白い肌を伝う。色んな目を見た。怒りの声や許しを求める声が聴こえた。欠けた前歯。乱れた髪。もう一度殴る。手紙を取り出し、渡す。初めて涙が出る。内臓が熱くなった。互いの存在の出会いを感じる。月の点滅が激しさを増す。複数の色が溶け合った空の明滅。愛してほしいと伝える。涙が血まみれの頬に落ちる。涙と血液が溶け合うことがない。様々な音が押し寄せる。目まぐるしく景色が変わる。全身に痛みが走った。冷たいコンクリートの感触や、海が干上がったような匂い。愛してほしいと感じる。心臓がいたい。遠くで断続的に繰り返される音が心地よい。岸辺のような音。ただ海の中心のようでもある。景色や音が混ざり合う。騒がしいのが、かえって静かに思える。夜空の明滅が渦になる。知らない女が少しだけ振り向いて何かを囁くような幻覚が一瞬みえた。洪水のように流されていく。滴り落ちる水の音が赤いように思える。右手の甲にだけ、ほんの少し愛を感じた。知らない女は、多分、海を見てた。

 

 

 

 

雨のこと

 

 

 

ㅤ折り畳み傘じゃ全然足りない大雨の帰り道だった。電柱に少女が埋め込まれていた。

 雨宿りですか、と僕は聞いた。違います、と少女は答えた。何となく僕は家に帰りたくない気分だったので、しばらくそこにいることにした。

 朝から降り続く雨はそこかしこに水溜まりをつくっていて、反射する街灯の光を雨粒が揺らしていた。時々風に吹かれると、雨は横なぶりになって服ごと僕を水浸しにしていった。

 何をしているんですか、と少女が話しかけてきた。月が出るのを待っているんです、と僕は思ってもないことを言った。雨はしばらく止みませんよ、と教えてくれた。

 大雨が街の全ての音をかき消して、かえって静かに思えた。もしかしたら今この街には僕とこの電柱しか存在しないのではないか、とも思った。僕の真上で雨粒が傘にぶつかる音が、何故か遠くの雨の音に聞こえた。

 あなたこそ、帰らないんですか、と僕は尋ねた。帰れないんです、電柱に埋め込まれているので、と少女は答えて、でも帰りたくもないんです、と付け足した。

 僕はポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけようとした。でもタバコは濡れていて火はつかなかった。僕は濡れたタバコを無理やり箱に押し込み、ポケットに戻した。

 雨は好きですか、と尋ねた。どちらでもないです、と少女は答えた。では雨の音とピアノの音ならどちらが好きですか、と僕は聞いた。どちらも同じくらいです、と少女は答えた。

 雨が止む気配はなかった。街をより暗くしようとしているみたいだった。電柱を見ると、少女が涙を流しているように見えた。

 泣いてるんですか、と僕は尋ねた。これは雨です、と少女は答えた。

 僕は傘を電柱に立て掛けて、その場を離れた。去り際に少女の口が動いたようにも見えたが、雨の音はその声もかき消した。

 

 

 

五月病

 

 

私は五月病ではありません。五月病は完全に治癒しました。 私は五月病ではないのです。前述の通り、私は五月病ではありません。私を五月病だと言う人は、私の命を狙う暗殺者です。この間、交通事故で他人が死にました。あれも暗殺者の仕業です。しかし私は死にません。他人は死にますが、私は他人ではないため、死にません。暗殺者は私に悪夢を見せて、ビルの屋上から落とそうとしています。しかし今まで死んだことのある人間は全員他人なので、他人でない私は死にません。病気になった人間は必ず死にます。しかし私は死んだことがないので、当然五月病ではないのです。暗殺者の組織の人間はみんな死にます。私ではないからです。しかし組織の暗殺者たちは生き残るために私のクローンをたくさん生み出しています。遊園地のある部屋に入った時、たくさんの私が一斉に私を見つめてきました。私たちは私を殺そうという形相でした。私が私をにらみかえすと、私たちも私を一斉ににらみかえしてきました。私たちは私を殺そうとしています。私たちは私をどこまでも追いかけてきました。私を迷わせるために、たくさんの見えない壁で私を囲んでいました。たくさんの子どもたちがナイフで刺されました。あれも暗殺者の仕業です。彼らは私を狙っているのです。他人はナイフで刺されると、即座に絶命します。驚くべきことに、この世で起きた殺人事件では100パーセントの確率で人が死んでいます。恐ろしいことです。殺人事件の被害者は必ず死んでいるのです。しかし私は殺人事件に遭ったことはありません。従って死にません。今日も暗殺者は私を殺そうとします。私をベランダから落とそうとします。暗殺者は日に日に増殖し、他人はほとんど暗殺者になってしまいました。暗殺者は街で私を見ると私のことを睨みます。私の脳内を読み取ってきます。私のことを笑っています。みんな私の悪口を言っています。暗殺者は今日も私を線路に突き落とそうとします。

丸山という男

 

 

 

 

僕の友人に丸山という男がいるんですが、こいつがまたひどいんですよ。何ていうか、頭がおかしいんです。気が狂ってて、完全に倫理観が崩壊してるんです。自分以外の個体の気持ちが全くわからない奴で、その時の感情でしか行動しないんです。眠いから寝る、腹が減ったから飯を食う、人を殴ると楽しいから人を殴る、ってな感じで。もし自分が人に殴られたら痛いだろうなとか嫌だろうなとか、そんなことは全く想像できないんです。動物みたいですよね(笑)。そんな奴なのに何故かもう数年付き合ってる恋人がいるんです。完全に洗脳されちゃってるんですよね。この女の胃の中には石が詰まってるんですよ。丸山が道を歩いてるときに適当に拾った石の重さが知りたいとか言って、彼女に石を食わせて、体重を計らせたらしいです。そのせいで彼女は体重が5キロくらい増えちゃったんですけど、それから腹が減らなくなったから結局ガリガリに痩せちゃって元の体重に戻ったらしいです。何せ常に胃の中に石が詰まってるわけですからね。おかしいですよね(笑)。多分この女ももうじき死ぬんですけど、実は丸山は前に付き合ってた女も殺しちゃってるんですよね。こいつはただ倫理観が崩壊してるだけじゃなくて、性癖も狂ってるんですよ。簡単に言うと、臓器を食べたがるんです(笑)。スカトロとかならまだわかるんですけどね。まあその性癖がエスカレートして、性行為中に交際相手の女の腹を裂いて腸かなんかを食いちぎったらしいです(笑)。相当苦しんで死んだらしいですよ。まあ丸山はあんな見た目ですからね、基本的に人間には嫌われるはずなんですが、定期的にちゃんと彼女を作ってくるんです。不思議ですよね。ただ殺したこの女は相当気に入ってたらしくて、死んだ後もこの女が埋まってる墓石と夜な夜なセックスしてたらしいです(笑)。本当に気味の悪い奴です。あとこいつはとにかくゲロを吐きます。自由自在にどこでもゲロを吐けるんですよ。特異体質なんです。街を歩いてて、女がいたらいきなりゲロをぶっかけるんですよ(笑)。たまったもんじゃないですよね。あんな見た目の男にですよ。これがまた臭いんです。ゲロを食ったのかみたいな匂いのゲロなんですよ。だから極力丸山と2人で行動するのは避けてますね。変な目で見られますから。高田馬場とかを歩いてる分にはまだいいんですよ。元々ゲロだらけですから。綺麗な街で吐かれたらたまったもんじゃないですよ。ゾンビみたいですからね。ひとりハロウィンです。ゲロをかけた女をみて興奮して、チンポを立ててるんですよ(笑)。あと丸山は差別が大好きなんですよ。ひどい奴でしょ。病気で弱ってる人とかを見ると、とにかく頭ごなしに暴言を吐きまくるんですよ。そして、ゲロをかける(笑)。でも不思議なことに、そんな奴ら相手にチンポを立ててるんですよね。ひどい暴言を吐きながら、自分のゲロまみれになった日雇労働者の親父とかにチンポをしゃぶらせてたりしましたよ。これはおかしかったですね(笑)。ゴミだ虫けらだって貶してる相手にチンポしゃぶらせてる訳ですからね。あと丸山はとにかく障害者とか子どもが好きですね。多分弱い人間が好きなんです。自分より明らかに地位が下だったり、力が弱そうに見える相手にはもうあからさまに強くでるんですよ。基本は気の弱い奴なんで、僕なんかにはペコペコしてくるんですが、子ども相手になんかひどい態度ですよ。わかりやすい奴でしょ(笑)。丸山は無職なんで基本的に僕が飯を食わせてやってるから、僕には逆らわないですよ。一見合理的なんですけど、本当に動物みたいですよね。まあ弱い奴は基本的にみんな性欲の対象ですからね、子ども相手だと男の子でも女の子でも関係ないんです。とにかくゲロをかけて、無理やり犯すんですよ。多分男か女か見分けられないんでしょうね。馬鹿だから(笑)。穴が一つ以上あればいいんです。まあゴミムシダマシみたいなもんです。あと障害者が好きですね。小人症の人とか、生まれつき脚が弱くて立てない人とか、目が見えない人とか、単に知的障害者とか、とにかく弱い人間が好きなんです。好きというか、ただ性欲の対象なんでしょうね。相手が抵抗出来ないとわかると、途端に強気にでる。普段は臆病な奴なんですけどね。とにかく考え方が古いんですよ。纏足が好きな親父みたいな。タブーの化身みたいな人間です。まあこいつ自身も障害者みたいなもんなんですけどね(笑)。まあそんな性的倒錯のせいで、今の恋人ももう肘から先は無いですね。あれは酷かった。僕は会ったことがあるんですが、切られてるんですよ肘から先が。とにかく手足が短い方が好きみたいですね。まあ別に本人も気にしてる感じじゃなかったんでいいんじゃないんですかね(笑)。洗脳されてるからでしょうけど。洗脳が解けたらどうなるんでしょうかね。あ、手がない、みたいな(笑)。まあそれより先に死ぬんでしょうけど。まあとにかく差別と偏見を地で行く感じの男です。特に女性蔑視なんかひどいもんですよ。この間も高田馬場駅前の交差点で女はクソだみたいなこと言いながらそのへんの女を殴りつけて思いっきりゲロをぶっかけてましたけど、そしたらフェミニストみたいな親父が怒鳴りこんできて、もうすごい剣幕ですよ。基本的に自分より強そうな相手には弱いですから、もうペコペコするだけで、これはおかしかったですね。違うんですとか勘違いですとか言って。ゲロをぶっかけといて何が違うんですだって感じですよ(笑)。本当に丸山というのはひどい男です。膨大な性欲を暴力とゲロで発散するって感じで。大学時代は好青年みたいな雰囲気だったんですけど無職になったあたりからもう狂人になっちゃいましたね。まあ当時からかなりおかしかったんですけどね。まあ丸山という男には関わらない方がいいです。