ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

昨日の夢

 

 

 

 

荒れた海の上に大きな色とりどりのバルーンが無数に浮かんでいる。夜中に食用カエルと話し込んでいたら、腎臓を落とした。僕はそれを食べて、彼女を探した。彼女は飛び降り自殺を七度試みたせいで、多少問題がある。自由を恐れて、誰かに自分を束縛させようとする。水色のボールがバウンドしてる。踏切は簡単にくぐれるし、死は近い。かわいいピンク色の服は、空に映えるように。白いワンピースは燃えるとき映えるように。孤独は群集の中にしかない。蛆虫が死体に群がっているけど頑張れば食えそう。ガチャポンしたら人の耳が出てきた。人魚がいたら断面を見たい。彼女を探してる途中で、包丁でキャッチボールした。生きたくても生きられない人もいるらしいので、死のう。毎日恋の話ばかりしている。相対性理論は全否定って感じで、月で真夏の恋したい。空を飛ぶのはお前らだけじゃないって、馬鹿な鳥にわからせたい。どんな穴を覗いても彼女はいなかった。落雷で調理費が浮いた。血まみれのバターで味付けたゾウ丼と、アリの死骸です。神に近付こうとして、深爪した。パイプオルガンの音が鳴り止まない中ジェットコースターに乗って黒くなった死体をいくつも見せつけられた。気付いたらクリスマスだった。月は南半球にあるので、真夏にクリスマスがくる。彼女は空中にいた。バルーンで首を吊って浮かびながら死んでいった。彼女の目は真珠みたいだなんて言えない。ゴキブリの羽みたいに黒光りしていた。トナカイが彼女の周りをぶんぶん飛び回っていた。夜空の星が赤いセーターにからまってうざそう。プレゼント梱包用のリボンを頭に巻いていた。固結びだったが。ジングルベルの大群が空を覆い尽くして鼓膜をやった。彼女がよくゲロをかけてきたことを思い出した。ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル。空を泳ぐときに平泳ぎなのがあほらしかった。全てが腐っているはずなのに、焼きたてのグラタンプリン七面鳥パフェみたいな匂いがした。トナカイじゃない、これシカだ。そんなことを言いながら彼女は絶命していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス

 

 

 

橙色の暖かい光が部屋の中を満たしている。お酒の瓶がずらりと並んでいて、妖艶に光ってる。ここにはクレープもあれば、ワインもある。ここにないものはきっと世界のどこにだってない。お肉をジュージュー焼いている音が聞こえてくる。きっとこんなに大きな七面鳥の丸焼きだよ。雪が降ってる。きっと僕たちのためだけに降ってる。夜だってのに街灯やイルミネーションでこんなに街中キラキラだ。とりあえずキラキラさせとけってな感じで。きっと空の上からでもわかる。銀河の外からでもわかる。あんなに大きな木が、枝の先まで全部光ってる。蝋燭の火のひとつひとつが、みんな僕たちを祝福してる。スキップしたくなるような音楽が、今日は街中、いや森の奥までずっと夜通し流れてる。赤い服のひとたちがステージの上でラッパ吹いてる。ああ僕たちのためにだよ。ケーキもある。こんなに大きな。チョコレートもある。クッキーも。おばあちゃんがパンもくれるよ。あらゆるものがぜんぶ光ってて眩しいくらいなんだ。今日だけはシャンパンを飲んでもいいんだ。ママには内緒で。メリーゴーランドは我慢だよ飲酒運転だから。教会で歌を歌うのもいいけど、今日はきっと神様より偉いぞ。温かいポテトとこんなに大きなビール。みんな靴下を吊るしているけど、僕は今年は眠らないんだ。それにきっと僕らにはもう朝はこない。どこまでも澄んだ冬の夜空で星になるんだ。

 

 

多分、海を見てた

 

悪い夢をみてうなされながら起きた瞬間から、ピンクネオンの安っぽいホテルから一人で出てくる女をぶん殴ろうと決めていた。タバコを二十五本吸いながらまだ見ぬ女に宛てた手紙を書いて、夜を待った。

 

拝啓。はじめまして。あなたにとって、わたしは何なのでしょう。わたしは恋人なのでしょうか。いいえ、そうでないことはわかっています。わたしとあなたは互いに愛し合うことなんてできない存在ですものね。それに、わたしとあなたは今はじめて出会ったばかりですから。しかし、あなたもわかっているように、わたしとあなたは本当は互いに愛し合うべき存在なのです。なぜなら、あなたはあなたであり、わたしがわたしであるから。わたしが愛すべきは処女であり、そして、あなたは処女です。あなたがたとえ肉体の快楽を知っていても、誰かと結びついたことがあったとしても、あなたは本当の愛を知らず、即ちあなたは処女であるはずです。そしてわたしも同じです。だから私たちはお互いの無垢と無垢を永遠のものにするために、互いに愛し合うべきなのです。わたしたちは今まで出会うことができなかったばかりに、愛し合うことができなかった。しかし今、処女であるあなたとわたしは初めて出会い、愛し合うことができるのです。そのうえで、わたしと肉体関係を持ちましょうなんてことは言いません。恋人になろうとも言いません。ただ愛してると囁いてほしいのです。

 

手紙をなるべく丁寧に折り、ポケットに入れ、馬鹿みたいに騒がしい街へ向かった。愛を求めて愛のない通りを彷徨い、殴るべき相手を探した。街灯の揺れ。同じフレーズを繰り返すギター。各種金属の錆。ふらつく人間たち。太った黒いネズミ。錯乱。渦。道化師になれない。寒いし、吐き気がする。黒い男たちが誰かを傷付けているようにも、世界を救っているようにも見えた。手を繋ぐ男女。どうせ刺青がある。喉を通った胃液たちが、コンクリートの上で各種食材をゆっくり溶かしている。女がたくさんいて全員を殴り殺したいが、私を愛してくれそうにない。汚い命。海鳴り。ピアノは脳内でしか鳴っていないようだった。乾いた排水溝。波にのまれる錯覚。地面が柔らかく、歪む錯覚。割れた酒瓶。蛆みたいな虫たち。陰湿なホテル街。切れかけのネオンの明滅。彷徨。意味の無い言葉を叫んでいる。左右に頭を何度も振る。拳を握ったり開いたりする。目を思い切り開いて周辺を見回す。津波に襲われてるみたいだ。霧がかかったような街。月が点滅しているように見える。石をわざわざ拾って捨てる。唾を吐く。安っぽいピンクネオンの看板。レンガに爪を立てる。歯を突き立ててみる。頭を思い切りぶつけてみる。ふらついて空を見上げる。夜空で比重の違う色水たちがかき混ぜられている。声を上げる。唸るような風の音。世界に自分しかいないと感じる。耳鳴り。コンクリートの硬く冷たい感触。涙は出ないが泣き声を上げる。死にたいと感じる。嗚咽だけ。刃物なし。濁流に流される感覚。寒い夜。ピンク色の光。女がひとりで出てくる。顔面を殴る。もう一度殴る。もう一度殴る。肌は白い。顔面を殴る。高い声が聴こえる。ふらつく。倒れる。何度も顔を殴る。馬乗りになる。覆い被さる。殴る。血液が流れる。白い肌を伝う。色んな目を見た。怒りの声や許しを求める声が聴こえた。欠けた前歯。乱れた髪。もう一度殴る。手紙を取り出し、渡す。初めて涙が出る。内臓が熱くなった。互いの存在の出会いを感じる。月の点滅が激しさを増す。複数の色が溶け合った空の明滅。愛してほしいと伝える。涙が血まみれの頬に落ちる。涙と血液が溶け合うことがない。様々な音が押し寄せる。目まぐるしく景色が変わる。全身に痛みが走った。冷たいコンクリートの感触や、海が干上がったような匂い。愛してほしいと感じる。心臓がいたい。遠くで断続的に繰り返される音が心地よい。岸辺のような音。ただ海の中心のようでもある。景色や音が混ざり合う。騒がしいのが、かえって静かに思える。夜空の明滅が渦になる。知らない女が少しだけ振り向いて何かを囁くような幻覚が一瞬みえた。洪水のように流されていく。滴り落ちる水の音が赤いように思える。右手の甲にだけ、ほんの少し愛を感じた。知らない女は、多分、海を見てた。

 

 

 

 

雨のこと

 

 

 

ㅤ折り畳み傘じゃ全然足りない大雨の帰り道だった。電柱に少女が埋め込まれていた。

 雨宿りですか、と僕は聞いた。違います、と少女は答えた。何となく僕は家に帰りたくない気分だったので、しばらくそこにいることにした。

 朝から降り続く雨はそこかしこに水溜まりをつくっていて、反射する街灯の光を雨粒が揺らしていた。時々風に吹かれると、雨は横なぶりになって服ごと僕を水浸しにしていった。

 何をしているんですか、と少女が話しかけてきた。月が出るのを待っているんです、と僕は思ってもないことを言った。雨はしばらく止みませんよ、と教えてくれた。

 大雨が街の全ての音をかき消して、かえって静かに思えた。もしかしたら今この街には僕とこの電柱しか存在しないのではないか、とも思った。僕の真上で雨粒が傘にぶつかる音が、何故か遠くの雨の音に聞こえた。

 あなたこそ、帰らないんですか、と僕は尋ねた。帰れないんです、電柱に埋め込まれているので、と少女は答えて、でも帰りたくもないんです、と付け足した。

 僕はポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけようとした。でもタバコは濡れていて火はつかなかった。僕は濡れたタバコを無理やり箱に押し込み、ポケットに戻した。

 雨は好きですか、と尋ねた。どちらでもないです、と少女は答えた。では雨の音とピアノの音ならどちらが好きですか、と僕は聞いた。どちらも同じくらいです、と少女は答えた。

 雨が止む気配はなかった。街をより暗くしようとしているみたいだった。電柱を見ると、少女が涙を流しているように見えた。

 泣いてるんですか、と僕は尋ねた。これは雨です、と少女は答えた。

 僕は傘を電柱に立て掛けて、その場を離れた。去り際に少女の口が動いたようにも見えたが、雨の音はその声もかき消した。

 

 

 

五月病

 

 

私は五月病ではありません。五月病は完全に治癒しました。 私は五月病ではないのです。前述の通り、私は五月病ではありません。私を五月病だと言う人は、私の命を狙う暗殺者です。この間、交通事故で他人が死にました。あれも暗殺者の仕業です。しかし私は死にません。他人は死にますが、私は他人ではないため、死にません。暗殺者は私に悪夢を見せて、ビルの屋上から落とそうとしています。しかし今まで死んだことのある人間は全員他人なので、他人でない私は死にません。病気になった人間は必ず死にます。しかし私は死んだことがないので、当然五月病ではないのです。暗殺者の組織の人間はみんな死にます。私ではないからです。しかし組織の暗殺者たちは生き残るために私のクローンをたくさん生み出しています。遊園地のある部屋に入った時、たくさんの私が一斉に私を見つめてきました。私たちは私を殺そうという形相でした。私が私をにらみかえすと、私たちも私を一斉ににらみかえしてきました。私たちは私を殺そうとしています。私たちは私をどこまでも追いかけてきました。私を迷わせるために、たくさんの見えない壁で私を囲んでいました。たくさんの子どもたちがナイフで刺されました。あれも暗殺者の仕業です。彼らは私を狙っているのです。他人はナイフで刺されると、即座に絶命します。驚くべきことに、この世で起きた殺人事件では100パーセントの確率で人が死んでいます。恐ろしいことです。殺人事件の被害者は必ず死んでいるのです。しかし私は殺人事件に遭ったことはありません。従って死にません。今日も暗殺者は私を殺そうとします。私をベランダから落とそうとします。暗殺者は日に日に増殖し、他人はほとんど暗殺者になってしまいました。暗殺者は街で私を見ると私のことを睨みます。私の脳内を読み取ってきます。私のことを笑っています。みんな私の悪口を言っています。暗殺者は今日も私を線路に突き落とそうとします。

丸山という男

 

 

 

 

僕の友人に丸山という男がいるんですが、こいつがまたひどいんですよ。何ていうか、頭がおかしいんです。気が狂ってて、完全に倫理観が崩壊してるんです。自分以外の個体の気持ちが全くわからない奴で、その時の感情でしか行動しないんです。眠いから寝る、腹が減ったから飯を食う、人を殴ると楽しいから人を殴る、ってな感じで。もし自分が人に殴られたら痛いだろうなとか嫌だろうなとか、そんなことは全く想像できないんです。動物みたいですよね(笑)。そんな奴なのに何故かもう数年付き合ってる恋人がいるんです。完全に洗脳されちゃってるんですよね。この女の胃の中には石が詰まってるんですよ。丸山が道を歩いてるときに適当に拾った石の重さが知りたいとか言って、彼女に石を食わせて、体重を計らせたらしいです。そのせいで彼女は体重が5キロくらい増えちゃったんですけど、それから腹が減らなくなったから結局ガリガリに痩せちゃって元の体重に戻ったらしいです。何せ常に胃の中に石が詰まってるわけですからね。おかしいですよね(笑)。多分この女ももうじき死ぬんですけど、実は丸山は前に付き合ってた女も殺しちゃってるんですよね。こいつはただ倫理観が崩壊してるだけじゃなくて、性癖も狂ってるんですよ。簡単に言うと、臓器を食べたがるんです(笑)。スカトロとかならまだわかるんですけどね。まあその性癖がエスカレートして、性行為中に交際相手の女の腹を裂いて腸かなんかを食いちぎったらしいです(笑)。相当苦しんで死んだらしいですよ。まあ丸山はあんな見た目ですからね、基本的に人間には嫌われるはずなんですが、定期的にちゃんと彼女を作ってくるんです。不思議ですよね。ただ殺したこの女は相当気に入ってたらしくて、死んだ後もこの女が埋まってる墓石と夜な夜なセックスしてたらしいです(笑)。本当に気味の悪い奴です。あとこいつはとにかくゲロを吐きます。自由自在にどこでもゲロを吐けるんですよ。特異体質なんです。街を歩いてて、女がいたらいきなりゲロをぶっかけるんですよ(笑)。たまったもんじゃないですよね。あんな見た目の男にですよ。これがまた臭いんです。ゲロを食ったのかみたいな匂いのゲロなんですよ。だから極力丸山と2人で行動するのは避けてますね。変な目で見られますから。高田馬場とかを歩いてる分にはまだいいんですよ。元々ゲロだらけですから。綺麗な街で吐かれたらたまったもんじゃないですよ。ゾンビみたいですからね。ひとりハロウィンです。ゲロをかけた女をみて興奮して、チンポを立ててるんですよ(笑)。あと丸山は差別が大好きなんですよ。ひどい奴でしょ。在日朝鮮人とか部落の人とかを見ると、とにかく頭ごなしに暴言を吐きまくるんですよ。そして、ゲロをかける(笑)。でも不思議なことに、そんな奴ら相手にチンポを立ててるんですよね。ひどい暴言を吐きながら、自分のゲロまみれになった日雇労働者の親父とかにチンポをしゃぶらせてたりしましたよ。これはおかしかったですね(笑)。ゴミだ虫けらだって貶してる相手にチンポしゃぶらせてる訳ですからね。あと丸山はとにかく障害者とか子どもが好きですね。多分弱い人間が好きなんです。自分より明らかに地位が下だったり、力が弱そうに見える相手にはもうあからさまに強くでるんですよ。基本は気の弱い奴なんで、僕なんかにはペコペコしてくるんですが、子ども相手になんかひどい態度ですよ。わかりやすい奴でしょ(笑)。丸山は無職なんで基本的に僕が飯を食わせてやってるから、僕には逆らわないですよ。一見合理的なんですけど、本当に動物みたいですよね。まあ弱い奴は基本的にみんな性欲の対象ですからね、子ども相手だと男の子でも女の子でも関係ないんです。とにかくゲロをかけて、無理やり犯すんですよ。多分男か女か見分けられないんでしょうね。馬鹿だから(笑)。穴が一つ以上あればいいんです。まあゴミムシダマシみたいなもんです。あと障害者が好きですね。小人症の人とか、生まれつき脚が弱くて立てない人とか、目が見えない人とか、単に知的障害者とか、とにかく弱い人間が好きなんです。好きというか、ただ性欲の対象なんでしょうね。相手が抵抗出来ないとわかると、途端に強気にでる。普段は臆病な奴なんですけどね。とにかく考え方が古いんですよ。纏足が好きな親父みたいな。タブーの化身みたいな人間です。まあこいつ自身も障害者みたいなもんなんですけどね(笑)。まあそんな性的倒錯のせいで、今の恋人ももう肘から先は無いですね。あれは酷かった。僕は会ったことがあるんですが、切られてるんですよ肘から先が。とにかく手足が短い方が好きみたいですね。まあ別に本人も気にしてる感じじゃなかったんでいいんじゃないんですかね(笑)。洗脳されてるからでしょうけど。洗脳が解けたらどうなるんでしょうかね。あ、手がない、みたいな(笑)。まあそれより先に死ぬんでしょうけど。まあとにかく差別と偏見を地で行く感じの男です。特に女性蔑視なんかひどいもんですよ。この間も高田馬場駅前の交差点で女はクソだみたいなこと言いながらそのへんの女を殴りつけて思いっきりゲロをぶっかけてましたけど、そしたらフェミニストみたいな親父が怒鳴りこんできて、もうすごい剣幕ですよ。基本的に自分より強そうな相手には弱いですから、もうペコペコするだけで、これはおかしかったですね。違うんですとか勘違いですとか言って。ゲロをぶっかけといて何が違うんですだって感じですよ(笑)。本当に丸山というのはひどい男です。膨大な性欲を暴力とゲロで発散するって感じで。大学時代は好青年みたいな雰囲気だったんですけど無職になったあたりからもう狂人になっちゃいましたね。まあ当時からかなりおかしかったんですけどね。まあ丸山という男には関わらない方がいいです。

 

 

 

 

 

誰かが詩を書いた時

 

 

 

誰かがクソみたいな詩を書いた時、それは何にもなれずにただこぼした牛乳の上やラーメン屋の通気口の前を通り過ぎて、誰かに踏みつけられたり唾をかけられたりしながら、たどり着いた先で骨になったり、あるいはならなかったりする。深夜三時頃の東京のどこかの道、ある青年が自転車を漕ぐ体力も失い、緩い上り坂を自転車を押しながら歩いていた。彼よりも少し先に、彼よりも更にゆっくりと自転車を押している怪しい男がいた。長髪でボロい服を着た怪しい男だ。青年は自転車を押しながら、ゆっくりと男を追い越していった。その時に青年は男の顔を見たりしなかった。もちろん話しかけたりもしなかった。男を追い越した後も振り向いたりはしなかった。東京の夜の、ある帰り道の、どうでもいい街灯の光や、何でもない匂いとか、代わり映えのない音が、そこにあったりなかったりした。

 

 

 

呼吸する低体温シンドローム

 

 

 

クラゲをベランダで飼うのが流行った頃、ピンクのジンジャーエールはまさにシベリア出兵のそれでした。消しゴムでつくった冬ですが、風化した夕暮れがあなたの胸の中でずっと消え続けているわけです。少女の出産にも似たラーメンスープの味が、短冊に雪を降らせていたのですよね。コンドームが破裂した音で目覚めた朝は、自殺みたいな喫茶店です。シティポップが流れる防空壕のコンビニでペリカンの民主主義が崩壊しました。地雷で足を失った金曜日がちょうど夢をみていた頃ですね。亀の背中に乗っても駅中キヨスクに爆弾は落ちませんし、ベルリンの壁が発酵しません。友情より大事な光の反射が、深夜の高速道路に渦を巻いて気絶していたんです。マクドナルドのウイスキー茶漬けじゃ全然酔えない夜に、ルワンダで人が何人死んだって冷凍庫で新聞紙は冷やさないって。雪だるまにチューブバターかけてもあなたがそこにいてくれるなら赤いコンテナでうさぎもろとも運んであげます。毒りんごが野菜じゃないならわたしは太陽系にいちゃいけません。肝臓のおとぎ話が荻窪で爆発したらしいです。トタンはせんべいを食べないし、春に夕暮れはきません。線香花火を打ち上げて、首吊ったまま生きていきます。低体温の夜の向こう側で、アスファルトがサーカス食べました。キッチンの生首畑では、明日もどうせ触れません。抉れた月に雪が積もって、眠れぬ夜が再生され続けるんです。

 

 

 

冬になるから

 

 

 

酔っ払って家に帰ったとき、寝ている赤ん坊をあやしていたら床に落として殺してしまったのを思い出すと今でも笑いが止まらない。それから何故か家を追い出され路上生活になったが常に悪霊が耳元で殺せ殺せと囁いてくる。誰でもいいからひたすら殺せと。雪の降る東京で一人残らず殺したい。理由は何だっていい。雪だから。冬だから。寒いから。とにかく誰かを殺さなきゃいけない。何処だっていい。誰だっていい。郊外の別荘で過ごす老夫婦も殺したい。昼間から裸でセックスに耽る新婚夫婦も殺したい。銃がない。だから傘とかでいい。傘の先端でひたすら眼球を突きたい。そう、雪だから。冬だから仕方ない。傘がなきゃどうしようもない。だから殺さなきゃいけない。傘を持たなきゃいけないなら仕方ない。胸を開いて肋骨も開いて肉とかレバーとかを取り出して食べたい。どんなに幸せな人間も、どんなに成功している人間も、この手で刺せば人生なんてすぐ終わる。突然終わる。知らないホームレスに刺されて急に終わる。いままでどんなに努力してきたとしても、どんなに苦労してきたとしても、気まぐれに俺がこの傘で刺せば人生なんて一瞬で終わる。どんなに人を見下している奴も、どんなに優しい奴も、簡単に死ぬ。みんな死ぬ。どうせ死ぬ。馬鹿馬鹿しい。雪だし。冬だから死ぬ。だから殺す。冬だから。殺す理由はなんだっていい。ただ生きる理由なんか何ひとつない。生きる意味もない。そんなものがあると思っている奴はただの低知能だ。実に馬鹿馬鹿しい。殺せ殺せと囁いてくる。ひたすら殺したい。殺さなきゃいけない。雪が降るなら傘が必要だから。それなら仕方ない。傘で眼球を突き刺せばどいつもこいつも死ぬ。殺すしかない。冬になるから。

 

 

 

だいすきなひとがいますよ

きこえますか?わるいやつらにこいをじゃまされていますよ?こいのなやみがありますよ?だいすきなひとがいますけどわるいやつらからのこうしゅうはぱるすでんぱにじゃまされておもいがとどきませんよ??でもせんせいびょうきはなおりましたよにんげんがもっているしぜんちゆりょくのちからであたまのわるいびょうきもなおりましたよ?おくすりはいりませんよ?だいすきなひとがいますけどわるいやつらのわるいでんぱのせいでとどきませんよ?あたまのなかをすべてわるいやつらにみられていますよ。さとられていますびょううきはなおりましたのになぜですか?わるいやつらはどうしていやがらせをしてきますか?いやがらせがまいにちひどくなっていますよ?ふかいなおとをだしてきますよ?ぼうがいでんぱですよ。となりのへやにずっといますよ。わたしのあたまのなかをのぞいていますよ?となりのへやでずっとそうじきをかけていますよ?とてもうるさいですよ?きみのわるいわらいごえもきこえてきますよ?わたしをわらっていますよ?どうしていやがらせするですか?せいしんかにつれてかれてくすりずけにされましたよ?せいしんかのやつらはわるいやつらですよ?でもしぜんちゆりょくのちからでびょうきはかんちしましたよ?でもみんなわたしのわるぐちをいっていますよ?わたしがねているときわたひのへやにはいってきてわたしのねがおをみてわらっていますよ?だいすきなひとはとてもかわいいですからだいすきなひととけっこんしたいですけどじゃまされますよ?わたしはびょうきはなおりましたのでもうだいじょうぶですよ?わるいやつらをたおすだけですよ?はーぶのちからのしぜんちゆりょくでびょうきはなおりましたよ?びょうきはなおりましたのでだいすきなひととけっこんしたいですよ?おまじないをかけていますよ?でもわるいでんぱにじゃまされますよ?たいほしてもらえませんか?やつらしけいですよ?だいすきなひとはとてもえがおがすてきですよ?とてもかわいいですよ?わたしのおよめさんになりますよ?でもわるいやつらのせいでとどきませんよ?とてもかわいいですわたしのおよめさんになるですよ?とてもだいすきですよ?かわいいですよ?おまじないもかけてはーぶのしぜんちゆりょくでたたかっていますよ?わるいやつらがわたしをころそうとけいかくしていますよ?だいすきなひとはわるくないですよ?わたしとけっこんしますよ?もうすぐくりすますですからだいすきなひととてをつなぎたいですよ?だいすきなひとにおもいをつたえていますがわるいこうしゅうはぱるすでんぱにじゃまされていますよ?でもだいすきなひとはとてもかわいいですよ?だいすきなひとはえがおがとてもすてきですよ?こんなにすきなのにどうしてつたわらないですか?

メロンソ

 

 

 

知らない男に処女を捧げよ。女は暴力で黙らせろ。弱い奴から搾取しろ。約束なんか守るな。刃物で殺害しろ。アイドルたちが歌っていた曲の歌詞はそんな感じだった。コンサートのクライマックスではメンバー同士が殺し合いをしていた。観客たちは殺せ、ばらせ、殺っちまえと合いの手をいれる。アイドルたちは歌いながら殴り合い、踊りながら血を流した。生き残った女の子はナイフを隠し持っていた。血まみれの歯を見せてニヤりと笑うとそんなショーは終わった。僕は臆病だからいつだって青空のひろがりと、人々の雑踏の中に身を置きたい。生ぬるい虚無の中、他人の幸福をぼんやりと妬みながら生きていきたい。その日、夜明けしかこなかった。真夏の夜明けだけが何度も何度も繰り返された。夜明けバカヤロウと思いながら電信柱をのぼり白い紙を細かくちぎって撒いた。完全に雪だった。僕は電線を琴にしてクリスマス・ソングを奏でた。その音色は遠い遠い国まで届いた。真夏の夜明けに僕だけがクリスマス。どうしようもなくなって僕は電信柱から電波を飛ばして好きな女を呼んだ。ずっと好きな女だ。僕は臆病者なのでビール瓶で殴ることは出来なかった。だからワイングラスを投げつけた。彼女の顔は頬にひとつだけ切り傷がついて、ワインでベトベトになった。昔のおとぎ話に電信柱が出てこない。カメとかしか出てこない。また空虚の中、電信柱の上から日の出を眺めた。生卵と涙が似ているという理由から、彼女は泣く演技をする時いつも生卵を顔に打ち付ける。僕が白ワインだと思ってずっと飲んでいたのは、うっすいメロンソーダだった。殺せ、ばらせ、殺っちまえ。殺害しろ。暴力で黙らせろ。そんな言葉が頭の中でずっとぐるぐる回っていた。でも臆病な僕はひたすらワイングラスを投げつけることしかできなかった。彼女は泣いたフリして生卵をいくつも額で割った。彼女の顔はメロンソーダと生卵と血液でベトベトになってすごい臭かった。

 

 

動物園へようこそ

 

 

 

 ある日森の中、くまさんに出会った。そうして私は死んだ。しかも不幸になった。上空から核爆弾が落ちてきてすごく痛い。木々に括りつられた無数の葉に遮られ縁ができていても、どこまでも続いていることが一目でわかるほど青い空に、大きなキノコ雲が打ち上げられた。世界は火の海だ。白いワンピースが遠くにみえる。死にながら私は、全く知らない人物を思い出していた。彼はコーヒーを一口だけ飲んであとはグラスごと捨てるようなぶっきらぼうな男であり、ペットの犬とのセックスが日課となっている。黒くて大きなその犬は口で筆を噛んで絵をかけるほど器用であった。それ故、河川敷の浮浪者を殺した後、ステーキや、血のスープ、内臓で出汁をとって髪を漬けたラーメンなど、まるで高級ホテルのフレンチディナーのような料理をいくつもつくることができる。犬は浮浪者ディナーを用意すると、男から新鮮な浮浪者の骨を与えられるため、喜んで毎日彼らを殺していた。雨の日も、嵐の日も。男の家は慢性的に死臭が漂い、育てていた野菜も枯れてしまっていた。朝めざめる度に、不快な気分になる。真っ黒にふやけた葉や、黴だらけの根菜。男は腐った野菜を皿に盛り付けながら泣き喚く。俺が夢みたのは、こんな場所じゃない。夢みたのは、一面カラフルな花が咲き、季節ごとに新鮮な野菜が採れ、それが地平線の彼方まで続く幻想的な庭だ。今や浮浪者の死体の山。蝿が集り、野良犬や野良猫、タヌキ、トナカイ、キリン、ゾウ、見たことのない動物たちも集まってくる。俺の夢みたお花畑は、もはや夢の中にすらない。ノコギリを持って、動物たちの首を片っ端から切り落としていった。大切にしていた愛犬もオスだと気付いたので頭部を吹き飛ばした。しかしその日から、浮浪者ディナーが提供されることはなくなってしまったのだ。頬が落ちるほど甘い肉に、喉に粘りつく血液や、噛みごたえのある髪……。たまらなく浮浪者が恋しくなって、自ら河川敷へ狩りに出掛けることにした。街はどこもゴミの山。絶望的な風景が続く。いきなり殴ると殴り返してくるような教養のない人間だらけだ。河川敷、そこにはゴミを漁って生きている醜い姿の人間たちがかろうじて生きている。溢れ出す涎を飲み込むと、浮浪者たちは一斉にこちらを睨みつけた。男がホームレスイーターだということに気が付いたのだろうか。こちらも時代劇の主人公さながらの形相で睨み返す。浮浪者どもが怯んだその隙に、殴りかかった。ガイコツのように痩せ細り、綿アメ並の骨密度のこいつらに、俺の腰の入ったパンチは致命的だろう。しかし束の間、鋭く尖ったものが、一斉に体に突き刺さる。浮浪者たちの爪は長く伸びきっていて、先端は細く研がれていたのだ。感動的な、野生の知恵。こいつらには勝てない。狼の群れに飛び込んだ羊の気分だった。羊は最後の力を振り絞り全力で逃げ出した。しかしただでは帰らない。逃げる際にたまたま見つけた赤ん坊を、ひったくってきたのだ。これでまた、人間の肉を食える。赤ん坊を大事に抱え走り続ける。足を引き摺りながら追いかけてくる死に損ないたちは、さながらゾンビのようだ。ゾンビはそこら中から湧き出してきて街を徘徊する。俺は腐乱死体を蹴り飛ばしながら、なんとか知らない家に飛び込んだ。ここなら安全だ。溢れ出した涎を飲み込むことすらせず、赤ん坊に齧りつく。そして歯で肉を切り裂こうとする。しかし、浮浪者の赤ん坊は綺麗に舐め取られたフライドチキンの様に、ガリガリに痩せ細っていた。とても食える部分などないのだ。その瞬間、全てを悟り絶望した。あの犬は、浮浪者などではなく健康な人間を殺して調理してくれていたのだ。涙が止まらない。俺は孤独だ。もう何もない。残されたのは腐った野菜と枯れた花だらけの広大な庭だけ。自分ひとりでは、生きていくことすらできない。死を決意した。ストーブのそばにあった灯油を頭からかぶり、持っていたライターで火を付けた。たちまち誰かの家は炎に包まれた。燃え盛る家にはまた別の男がいた。彼は自慰をしていた。いや、自慰をせざるを得なくなったのだ。彼は模範的な泥棒であった。泥棒だが一般的な自己中心的で迷惑な泥棒と違い、良心的な泥棒なのである。適当な家に忍び込み、家中を完璧に掃除する。その報酬として見つけた金をありったけ持って帰るのだ。誰にも迷惑をかけない上に、人の幸福に直結する素晴らしい仕事だ。彼はこの仕事に日頃からやりがいを感じていた。俺は世界を救う、ヒーローだ。出会った女、全員に性交を申し入れる。しかしほとんどの場合断られる。それもそのはず、彼は常にドブの銭湯に浸かったような悪臭を放ち続けているのだ。その匂いは強烈で、ゴミ溜めに集るハエやカラスですら即死し、ゾウやキリンも失神する。彼の性交を受け容れるのは、死体か、壁の穴。彼は忍び込んだ家をいつも通り廃墟へと変えていった。自分では掃除しているつもりでも、彼が一度でも歩いた家はとても人間が住める環境ではなくなる。そこへ扉の開く音が聞こえ、次に男女の話し声が聞こえてきた。彼らがこれからセックスを開始することはすぐにわかった。彼は怒張させながらわざわざ寝室まで移動してからたまたまそこに居合わせただけの泥棒のふりをしてクローゼットに潜り込んだ。男女はやはり寝室に入ってきてくだらない俗談をしながらベッドに入り込む。囁くような会話が途切れ、暫くすると女の深い息遣いが聞こえてくる。クローゼットの扉に耳を寄せ、暗闇の中でその声を必死に聞く。殺人級の悪臭でも、肉欲には勝てないのだ。やがて女の呼吸は喘ぎ声に変わり、ベッドも軋みはじめる。当然、クローゼットの中は既に精液まみれだ。女の喘ぎ声はやがて絶叫へと変わり、更に呻き声へと変わった。映画に出てくるゾンビのような呻き声だ。ようやく女の呻き声が静かになると、だんだんと息をするのが苦しくなる。耐えられなくなりクローゼットの扉を勢いよく開けると、そこに男の姿はなかった。そこにあったのは炎に包まれた部屋と食い散らかされた女の死骸だけだ。乳房は食い千切られ、腹は裂かれ、内臓が飛び出していた。頭もぱっくりと割れ、そこにはストローが刺さっていた。ベッドは血にまみれ、腕や首からは新鮮な血液が流れだしていた。ああ、たとえ死体でも、誰かの食いかけであっても、女であることに変わりはない。慌てて服を脱いで食べ残しにかぶりつく。俺は幸せだ。女を抱きながら、炎の中で死ねるなんて。今日はクリスマスの前夜だ。そんなことをふと思い出した。死ぬことをやめて、喉まで続く臓器を無理やり掻き出して首に巻いた。炎は街を焼き尽くしてゆく。窓を突き破り、猫を百億匹殺しても死刑にならない世界を駆け抜けた!
 森を焼くのが好きだった。寒い森も、焼けばあたたかい。釣りをするのも好きだった。川に毒を大量に流し、浮いてきた魚を捕まえる。大自然の中で汗を流すのは、本当に気持ちが良い。捕まえた魚はしっかり川に戻す。キャッチアンドリリース。美しい響きだ。川のせせらぎに包まれて、目が覚めると森の中だった。白い花があちこちに咲いている。そこら中に転がる死体への手向けのように。川の浅いところに巨大なクジラの死骸が散々打ち上がっている。清々しい気分だ。ロープで縛られた裸の少女を解放してやる。さあ、旅立ちなさい、世界はどこまでも続いていますよ。森の中にポツンとある小屋が僕の家だ。趣味の悪い牡鹿の生首が玄関に括りつけてある。僕は自分の家に入る度に胃の中身を全て吐き出してしまうのだ。さて世界では、毎日クリスマスが繰り返されている。とてもハッピーな季節なのだ。毎晩ケーキ。毎晩シャンパン。トナカイが夜空を飛び交う。街に小さな家を建てて、家族でゆっくり過ごすんだ。お嫁さんと、子どもがふたりくらい。でっかい犬も飼おう。そんな夢を毎日みている。そのためには、社会に貢献し金を稼がねばならない。僕は総理大臣になることを決意した。そして総理大臣になった。まず世界中の老婆を殺処分。爆弾をいくつか投下。仕事は終わり、幸せな家庭を作り上げた。笑いの絶えない幸福な場所だ。娘がひとり。そろそろ初潮だろうか。でかい犬もいる。綺麗な嫁も、死んではいるようだが毎日一緒だ。ひたすら窓からワイン入りワイングラスを投げ捨てる日々だ。通行人の頭の裂け目からは、モダンな葡萄酒色の血液が流れ出る。娘は白いワンピースのよく似合う美しい少女だ。そのころの僕と言ったら、処女強姦のことしか頭になかった。僕は娘を心から愛している。透き通る瞳に真白な肌。膨らむ前の胸や穢れなき唇。それになにより処女である。ああ僕の、愛する娘よ、永遠に処女のままでいておくれ。そう囁きながら、娘を強姦した。初潮前なのに、血がべっとりと付着していた。眼球をふたつ取り出して食べた。全身が血まみれになるまで少女を犯し続けた。美しい少女よ。ここからお逃げなさい。このままでは、穢れてしまうから。娘は立ち上がり、壁伝いに扉を探す。しかし扉の前には画鋲が千個敷き詰めてあるので絶叫とともに少女は転げ回る。やっとの思いで窓を見つけると、渾身の力で頭をぶつけ、二階の窓を突き破り下に落ちていった。墜落である。素晴らしい。それでも少女は立ち上がる。裸足で土を踏み、冷たいコンクリートを踏み、クリスマスで狂乱する街を、燃え盛る街を駆け抜ける。壁にぶつかりながら、石につまずきながら、暗闇の世界を駆け抜ける。ああ美しい少女よ、穢れなき少女よ。いつまでも、どこまでも……。その姿を目に焼き付けるために、窓から飛び降りた。しかしそこには、決して有り得てはならない光景が広がっていた。少女の白いワンピースは、もうすっかり紅色に染まっていたのだ。激昂し、絶叫した。頭が爆発しそうだ。炎に包まれる街を駆け抜ける少女のワンピースは、真白でなければならないだろう。紅色のワンピースだ。これを誰が許せるだろう。処女ではない。そう確信した。彼女は、処女ではない。僕は女を追いかけた。紅い女だ。かつての透明色の少女は、もういない。僕が彼女の肩に手をかけたとたん、高い声で叫んだ。街中に響きわたるような声で。窓を開けてピアノを弾いている遠くの誰かに、それは歌声に聞こえるだろう。手を取り、走った。街を抜け、誰もいない森の中へと。白い森の中へと。
 ピンク色のゾウが躍る。ここは天国。もうすっかり調子がいいの。妖艶なコンクリート。淫乱な電柱。発火する市街。発光する死体。トナカイが空を飛ぶ。私も飛べるの。壁が妊娠し、緑色のイルカが飛び跳ねる。ナスもトマトも爆発し、世界をカラフルに染め上げる。マグロが空を飛び、モグラが降り注ぐ。皆、首はない。首はない。一面極彩色のお花畑。犬が沈没し、猫が暴落する。おいしそうな匂いのする鳥の声。真っ青な牛の糞の匂い。色とりどりな幾何学模様。回り回って目まぐるしい。赤、緑、黄色、歪む花畑。ああ、街は燃え上がる。もし、もし明日になったら、雨も降るでしょう。ペンギンが溶け、シマウマが煮える。サイが始まり、クジャクが終わる。わあ、実物大の模型になった街は、散々消えても、消え尽きない。先生、私、もう大丈夫。ビロードのプレゼント。靴下へありがとう。空き缶が繁殖し、新聞紙が暴発する。パジャマを焚いて、腕を切る。キリンの首を微塵切り。トラの頭が高速で射出されたの。ワニの群れは凄まじい暴風雨。悪夢じゃない。素敵な夢よ。カバは膨張し、カラスは破裂。オウムの様に真っ赤な風船の欠片が弾け飛ぶ。イカが焼かれて売られちゃう。タコがへばりついてくる。あらクラゲは、もう零れない。もし明日になったら、雪も降るでしょう。あら鏡の中にパンダさん、いらっしゃい。今日は素敵なクリスマス。街中ひっくり返して大騒ぎ。お月様も掴める距離まで下りてくる。サンタクロースは首に真っ赤なヘビを巻いて。ウサギが開いて、リスが割れる。ヒツジもどうやら困り顔。ニワトリはずっと不幸。あちこちで綺麗な花火。お線香たくさん焚いてお祝い。遠くでお星さまが点滅。ロバが軋んでコアラが燻ってシカが煙ってアシカが凍る。ブタが咲いてゴリラが萎れてワシが救ってラクダが聳える。大きな大きなイチゴケーキ。シャンパンで乾杯しましょう。ケーキの上の蝋燭の炎を、一息で消して真っ暗。あらみなさん、タバコかしら。灰皿なら、私です。
 口から煙を吐き出す。私は誰なのだろう。顔も名前もない。口はないのに、口から煙は出る。白い森。白い花しか咲かないこの森に、名付けの少女がいると聞いてやってきた。動物の生首がいくつも吊り下げられた気味の悪い小屋。壁にはポルノポスターの代わりに人間の皮が貼り付けられている。タバコの煙と火薬の匂いが充満。血の海に臓器が泳ぐ。巨大な鍋では人間の死体が煮込まれている。少女はいない。いるのは全身が黒い毛皮に覆われ、鋭い牙が剥き出しになった大きなクマだけ。私は小屋を燃やして首を吊った。木の枝から紐を垂らして燃える小屋をみていた。白い森に赤い花がひとつ咲いたみたいだ。木々の隙間から北斗七星がみえる。あの星のひとつひとつにも名前があるのに私は。遠のく意識の中で全く知らない少女を思い出す。白いワンピースの少女だ。残像が蘇る。お逃げなさい。かすかにそう聞こえる。ここから早くお逃げなさい。死にながら私は白い花がどこまでも咲いている森を歩いていた。また炎が広がって、飛び火する。どんなに燃えても燃え尽きることはない。炎はどこへでも移り、報われない者たちを焼いてゆく。
 目が覚めると燃え盛る森の前にいた。もはやそれは巨大なひとつの炎だった。あのクマが助けてくれたのだろうか。街は相変わらずゴミの山。腐乱死体があらゆる場所に転がっている。首のない動物たちが街を闊歩。炎は留まることなく広がり続ける。今日はクリスマス。大きなケーキに、シャンパンで乾杯! クッキーを焼いて、靴下を吊るす。モミの木を飾りつけて、放火。森の中でクマと踊るの。メリークリスマス! メリークリスマス!
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大好きなあの子におやすみを言いたい

 

 

 

家でひたすら酒を飲み続けていると、窓の外からピアノの音が聞こえてきた。聞いたことのあるような旋律。鼻歌をのせたくなるようなメロディ。鍵盤を押す繊細な動き。細くて白くて、それでいて力強い指の動きまで頭の中に浮かんでくる。私は一升瓶を片手に持ったまま、誘われるように窓の外へ出た。すると眼下に美しい女性がいた。私はすぐさま発情した後、射精。一年後、めでたく出産。幸せな家庭を築き、幸福な日々を過ごしていた。毎日毎日ダラダラと生きる。部屋にいる知らない女を殴り続ける。ひたすら錠剤を砕いて吸引する。と、窓の外からピアノの旋律が聞こえてくる。美しい音色だ。私はどうしようもなく楽器を演奏したくなり、ハンマーを手にした。ベランダから飛び降り、知らない女を殴りつける。すぐさま響き渡る叫び声。これを録音し、一躍トップアーティストになった。長い下積み時代。支えてくれたのはいつも家族の存在だった。収入がなくとも夢を追わせてくれる妻。マネキンの娘。死んだ息子。思えば、私に家族などいなかった。私は気が付くと惨めなホームレスになっていた。非力なホームレスだ。女の爪を剥がすことすらできない。しかし、赤ん坊を殺すことはできた。私は商店街を歩く女が押している乳母車を全力で蹴飛ばした。すると乳児が転がり出たので助走をつけて踏みつけた。刹那、響き渡る歓声。拍手喝采の嵐。絶叫のオーケストラ。目が覚めると私は暗く生臭い独房の中にいた。鉄格子で遮られた小さな窓の外からピアノの音が延々と流れ込んでくる。不協和音のみで完成された絶望的な音色だ。常に吐き気を催し、ゲロを吐き続けた。孤独に包み込まれ、不安が途切れることはない。全身が痒く、手足は常に痺れている。私は不幸だ。私が一体何をしたと言うのか。悲しみの淵、私は幸せとは何かを考えていた。幸せとは、幸せとは、

きょうあったこと

 

 

きょうはこうえんに行きました。あんまりおぼえてないけどさむかったです。おじいさんがいました。おじいさんなのでもうすぐ死ぬと思ったのでかわいそうだなあと思いました。アリさんをたくさんつぶしてあそびました。楽しかったです。バッタをペットボトルに入れてふりまわしてもあそびました。なおちゃんやりょうちゃんと石をなげてもあそびました。やきゅうがへたなのでぼくにたくさんあたりました。なおちゃんはぼくのじてんしゃにのってかえりました。きょうもだれかにみられていました。きのうもきょうもだれかにおいかけられています。とてもこわいのでけいさつにそうだんしました。でもけいさつのおにいさんはびょういんに行けといいました。ぼくはひざをすりむいていたけどいえでおくすりをぬればなおると思ったけどふしぎだと思いました。ぼくはなんでびょういんいにいくのかはふしぎだと思いましたけどあたまから血がでていたのでいたかったのでびょういんに行きました。せんせいはあたまのびょういんに行けといいましたけどあたまのおくすりをもらったけどふしぎだと思いました。ぼくはがっこうにいきたいけどだめだといいました。ままはぼくをあまりがっこうや外につれていきません。ままはあまりぼくといっしょにいるところがほかのひとがみるのがいやだと言いました。ぱぱはおしごとをがんばっているのでずっとかえってきません。まどに石があたってきてとてもうるさかったです。まどをあけるとなおちゃんやりょうちゃんが石をなげていました。ぼくは21さいになりましたがともだちがいっぱいいて楽しかったです。

メリーゴーラウンド

 

 

 

 

 

今日の夢での魔術では、雪灯籠がそこら中。月明かりに突き当たり、月夜烏もお祭り騒ぎ。夜顔夕顔夜会草、森羅万象雪の下。鎧を纏った雪解けの、革命家の群れが燃え盛る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二月二十八日のこと、私は、もしくは彼女は、堕落したマルセイエーズと朽ち果てた讚美歌をうたい、かわいいお洋服に火をつけて、警察官を撃ちながら、ガラスを割ってお買い物。盗んだものを両手いっぱいに。グランドピアノは重くって、だから燃やしてバラードを弾いたの。歌わない小鳥は殺してしまえと、言ったのはきっとお父さん。二月二十九日のこと、死者の船では、腐った骸骨から血が流れるの不思議。私は柱に釘付けされて、そのまま大洋に流れて。あなたは寒いと微笑んで、それに水も冷たくて、でも海よりも大きな希望が、どこかにきっと、ないかもね。二月三十日のこと、排水口に血は流れ、道端には少女が吊られてる。悲しくて、氷のように冷たく、指先で弾くとポロポロ零れ落ちる。冬休みが終わらなくって私ちょっと退屈。春を待ってる。窓の外を眺めながら。雪の上に書いた文字も、雪がまた消すの。濡れてうつむくスカートの裾。消え続ける人々。二月三十一日のこと、これまでの日々の走馬灯。血に染められた雪原と、走る機関車の模型。晴れたら呼吸しよう。もしも二月が終わったら、私たちは何処へゆくのだろう。ピクニックでもしようか、メリーゴーラウンドを探そうか。二月三十二日のこと、どうしても目を塞いでしまう。春も、昼も遅すぎる。私は誰を想っているの。私は誰なの。元気な犬の声が聞こえてくるまでパズルでもして過ごそうか。真っ黒なピースが散り散りになっている。いつまでこんなところにいるのだろう。音もなく落ちる雪は、窓の外にあるのかもしれないし、ないのかもしれない。目を塞いでばかりで、血液と爛れた死体と永遠に訪れない春と人殺し。首吊り。嫌だよねこんなの。