ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

ニューヨーク・ドリーム

 

 

シャボン玉が時速二百キロで射出され、爆発し、街に住む二十万の人間が死んだ。テレビのニュースでも大きく報道され、新聞の一面を飾った。「シャボン玉、爆発」次のページを開くと馬鹿げた四コマ漫画が載っていた。一コマ目で人間が死に、二コマ目で人間が死に、三コマ目で人間が死に、四コマ目で人間が死ぬ。俺は腹を抱えて笑ったし、新聞を丸めて捨てた。ゴミ箱の中に空き缶が落ちていた。正確にはゴミ箱の中に落ちている缶は大概空き缶なので俺は勝手にそれが空き缶であると判断し、拾って投げた。当然、空き缶は通行人に当たって爆発する。通行人は死に、内蔵が飛び散り、こいつが朝に食べたであろう米や麺が大量に出てきた。それを見て早速腹が減ってしまう。俺はファミリー・レストランに入店し、ファミリーで来ている客を皆殺しにしてからそいつらの肉を食べた。店員は最初は引いていたが、慣れるとバーベキュー・ソースや塩を用意してくれた。俺は醤油を五リットル飲んで死んだ。明くる日、俺は次の人生へとシフト・チェンジしていた。鏡を見ると醜い顔の中年男性の姿が写っていた。俺はこの人生が嫌になって全裸で街を徘徊した。警察官数人に話しかけられたが事情を説明すると容認してもらえた。しかし俺はこんなに醜い全裸の中年男性として、どうやって生きていけばいいのだろうか。取り敢えず牧場へ訪れ牛を狩り、皮を剥いで縫い合わせて服にした。そしてそれを売った金で二十年暮らした。気付くと俺は死んだ牛でつくった服を売るファンション・ブランドのオーナーとして成功していた。俺はニューヨークに三百階建てのオフィス・ビルを建設したが、ニューヨークには死んだ牛があまりいなかったので間もなく倒産した。俺は血の滲む様な努力の後、飛行機の運転免許を取得し、ジャンボ・ジェット機で俺が建設したビル──死んだ牛タワー──に突っ込んで自殺した。

かわいいネコ

 

 

「死ぬから。本当に死ぬから」彼女はそう言ってから電話を切った。俺はゲーセンで三十分ほど時間を潰してから彼女の家に向かった。生きている彼女と会話するのはクソ面倒だが、どうせなら彼女の死体は見ておきたい。そうして俺は無事彼女の死体と対面することができた。生きている間の彼女は吐き気がするほどうるさいやつだったが死体ともなるとさすがにおとなしい。人というものは死ぬ。色々な場所で沢山の人が死んでいる。人が死んだことのない場所などこの惑星上にもうないのではないか。彼女が今死んでいるクソボロアパートのこの部屋でもかつて違う誰かが死んだだろう。ふと目の前に屍の山が浮かんだ。俺はその胸糞悪い景色と悪臭で気持ち悪くなって思い切りゲロを吐いてからその部屋を後にした。俺は絶対に死にたくないし痛い思いもしたくない。火事で焼け死ぬやつや、溺れて死ぬやつ、あんな目には遭いたくない。強いて言うならいつも通り眠っていてそのまま死にたい。しかし死ぬというのは馬鹿なことだろう。死ぬやつはどうしてあんな馬鹿なのか。そんなことを考えながら俺は公園でブランコを漕いでいるクソガキに石を投げていた。しかしブランコは揺れているためになかなか当たらない。やがて俺が石を投げていることに気がついたこの馬鹿なクソガキはブランコを飛び降りて駆け出した。そこで俺が渾身の一撃を右手から放つと、立ちどころにクソガキは吹っ飛んでいった。多分あのクソガキは死んだだろう。しかし死ぬやつというのはどうしてあんなに馬鹿なのか。俺はコンビニに入って、冷凍庫からアイスをいくつか取り出すと、コンビニから出た。するとそこの店員らしい人間がこちらに駆けてきて金銭を要求する。俺は煩わしくなってコンビニの定員をぶん殴った。死ぬまで殴ったから死んだ。あのクソガキもこの定員も、ブランコから降りたり俺に金銭を要求したりしなければ死んだりしなかった。死ぬやつってのは馬鹿だ。また目の前に屍の山が浮かんだ。俺は気持ち悪くなってゲロを吐いた。沢山の人間が死んでいる。しかし死ぬ人間は全員馬鹿だ。かつて死んだことのある人間の中に、一人でも賢い人間がいたか?  俺は馬鹿な人間の死体を見る度にゲロを吐いてしまう。しかし数秒後にはまた違う人間の死体が見たくなってしまうのだ。『かもめのジョナサン』の話を知ってるか? 餌を探すためじゃなくて飛ぶことそのものに価値を見出す話だ。完全に俺の人生だ。どいつもこいつも胸糞が悪い。馬鹿な人間は全員死ねばいい。馬鹿な人間は勝手に死んでいくが、勝手に死んでいくのを待っていられない。俺はカモメのジョナサンだ。日が暮れてきた。太陽の光が赤くなってくる。俺は夕陽を見る度に死体にこびり付いた血を思い出して気持ち悪くなってしまう。俺は太陽を殺す。絶対に殺す。俺は空を飛んで、あの太陽をぶっ殺しにいく。

食事

 

 

    ゴミ溜めで寝ているおっさんがかわいく見えた。その頃の僕といったら虐殺しかすることがなかった。おっさんは毎日ゴミ溜めで寝ている。僕が住んでいるのが二丁目でおっさんが寝ているのは三丁目だ。三丁目に住む人たちがゴミを捨てるところにおっさんは寝ている。三丁目は昼でも薄暗く、夜になると元気になるところだ。肩を出したお姉さんが歩いてる。汚い町なのに立派な車がいつも路肩にとまっている。三丁目の人たちのマナーは悪く、どんなものでもゴミ溜めに置く。ゴミを回収するお仕事の人たちもそれに対抗して、頑なにゴミを持って帰ろうとしない。そのためゴミ溜めにはソファーや冷蔵庫、テレビなどが置かれていて秘密基地のようになっている。おっさんはソファーの上で眠る。薄いけれど毛布もある。生臭いのはおそらく生ゴミのせいだ。カラスはいつもそれを狙っている。おっさんが寝るとカラスがたくさん集まってきて、辺りに散らばるパンくずや野菜の切れ端を食べる。コンビニの袋にも穴を空けて入念にチェックをする。酒場帰りの酔っ払いの吐瀉物もつつく。カラスのマナーも悪く、荒らしたものを再びゴミ溜めに戻すことをしない。そのため早朝の三丁目はいつもゴミが散らばっていて絶望的だ。おっさんはかわいい。正確に、時間通りに生きている。缶を拾って生きている。毎晩飲む麦の発泡酒のひとつだけを楽しみに生きている。半分くらい白髪になっている。髭も長くなっていてそこにも白い毛が混じっている。いつも同じジャージの様な服を着ている。冬になると穴だらけではあるがきちんと分厚いコートを羽織る様になる。おしゃれだし、かわいいのだ。僕はおっさんが大好きだった。虐殺しかすることのなかったその頃の僕は、おっさんを殺した。おっさんがカラスに食べられるところがどうしても見たくなったのだ。電柱の脇に落ちていたカラスの死骸を拾って二丁目の僕の家で唐揚げにした。その日、僕はおっさんに、新宿区歌舞伎町の方の三丁目で拾ったタバコをひと箱と、コンビニで買った缶ビールひとつとマッチ棒のひと箱、それにカラスの唐揚げを差し入れした。おっさんは喜んでいた。おっさんはかわいかった。唐揚げもすぐに平らげた。ビールの缶もすぐに空き缶になった。でもタバコは大切にちょっとずつ吸った。二本目のタバコをちょうど吸い終える頃に、僕は落ちていた鉄パイプを拾って、おっさんの頭に振り下ろした。おっさんはそのたったの一撃でピクリとも動かなくなった。幸せそうな顔して眠っていたよ。僕は少し離れたところからカラスがおっさんに食らいつくのを待った。カラスが集まってきているのはわかる。ただ僕と同じ様に離れたところから様子を伺っているだけだ。暫くすると両肩に大きな穴の空いた服をきた痩せ細った女がゴミを捨てに来たのでこいつも鉄パイプで殺した。このことについては本当に申し訳ないと思っている。夜明けが近付く。僕も焦りだす。カラスたちはおっさんの周りに散らばる生ゴミをつつくばかりでおっさんを食べようとはしない。待ちくたびれた僕はおっさんの耳を引き千切ってマッチで軽く炙ってから齧った。カラスたちに見せびらかしながら齧った。それをみたカラスたちは、僕がいるにも拘らずいっせいにおっさんの死骸に飛びかかり食べ始めた。僕は嬉しかった。おっさんはかわいかった。不思議なことにカラスたちは女の方には見向きもしなかった。カラスたちが食べやすいように僕はおっさんの皮を丁寧に剥がしていった。カラスも僕のことを仲間だと思ってくれているみたいだ。カラスはさらに集まっておっさんを食べた。おっさんはだんだんと小さくなって、分裂して、散乱して、かわいかった。僕は群がるカラスを何匹か鉄パイプで殴り殺した。二丁目の僕の家にそれを持って帰ってきて唐揚げにして食べた。生臭くて脂っぽかった。三丁目のゴミ溜めに吐いたよ。

幼女は爆発せよ!

 

 

幼女が爆発して散乱した!奇跡的な体験だ!神に感謝しよう!目の前で起きたこの奇跡に!幼女は爆発しました!まっ透明な肌と生まれた時から明い色の髪!焼け焦げてまっ黒くなって!爛れて燃えて、散乱する!綺麗な目ん玉飛び出してな!かわいいワンピースも吹き飛んで!燃え尽きた後には灰の塊しか残らない!爆発せよ!この世の全ての幼女よ!散乱せよ!焼け爛れよ!そして灰になって空気に消えよ!美しいものたちよ!爆発せよ!消えてなくなれ!美しいものたちよ!爆風に乗って!自ら風になれ!やがて透明となり、空気となり、エーテルとなれ!この世の全てを埋め尽くしてくれ!空気中の幼女の濃度を上げろ!何度も深く呼吸しよう!爆発せよ!散乱せよ!常に触れていよう!穢れたこの世界を!幼女で満たしてくれ!美しいもので満たしてくれ!かわいいワンピースを着て!染めたことのない髪よ!透明色の肌よ!噛まれたことのない唇よ!膨らむ前の乳房よ!穢れなき処女よ!全て爆発せよ!爆発し誘発せよ!全ての幼女は幼女の爆発に連られて爆発せよ!幼女よ!美しいものよ!爆発せよ!

濡れる

 

 

 

重い空気、頭痛、冷気、窓のくもり、水滴。犬は犬小屋へ。暗い。うねった髪の毛。建物の中へ駆け込む者達。脳を介さず通り抜ける言葉。眠気。机に、手すりに、窓枠に掛けられた傘。床に横たわる、あるいは円筒状に詰められた何本もの、傘。溜まるもの、貼り付くもの、滴るもの、零れるもの、落ちるもの、弾けるもの。閉鎖的、虚無的、感傷的。及び神秘的、幻想的。沁みてゆく、吸収され、それは濡れる。音となり、匂いとなり、光となる。家路を歩く者、あるいは立ち止まってどこかを眺める者。屋根の下で激しく傘を振る者、窓の内側でコーヒーを啜る者。あらゆるものも、全て包まれている。そしてどんなものも、全て憂鬱だ。列車を待つ学生も、ゴミを漁る浮浪者も、今日は全て憂鬱だ。ひとつの線の様にも見えるし、ひとつの点の様にも見える。形を変え、姿を変え、留まり、流れ、落下する。指の先で窓をなぞる。異国の文字が、誰も知らない文字が、浮かびあがって、ゆっくりと消えてゆく。全ては濡れて、全ては包まれ、そして全てが憂鬱だ。気だるく、眠く、憂鬱だ。全ては濡れて、全ては冷えて、やがて全ては消えてゆく。遠い遠いまどろみの底へ。

面白いラジオ

 

あの人ったら、急に頭のネジが外れて、実況のないラジオ競馬が聴きたいとか言い出して、チャンネルはニッケイに合わしてな、それから音量をゼロにしてそんでイヤホン耳に突っ込んでしばらくは目つむって集中してたんやけど、今度はだめだとか負けたとか騒いで、イヤホンの紐思いっきしラジオから抜いて、まあもちろん音量ゼロやからなにも流れなかったんやけど、したら食器棚のとびら?まど?を威勢よく、こう開いてな、なにが気に食わなかったんか、奥の方まで片腕突っ込んで、それから一気に引き抜いたもんやから、もうお皿やコップなんか浴びたみたいなんになって、もう、全部粉々んなってあちゃーってなったんやけど、まあとりあえず血まみれんなってたからそのまま放っぽっとって、でもな、金色のがこう縁のところについとってなんか安かったんやけど高そうに見えるかわいい形したかわいいお皿が割れとって、そんで堪忍袋のおかき、おかきやっけ?おせんべい?がなんたらになって、机の上に置いてあった花瓶を頭の横についとる耳のあたりにずんと叩きつけてやってな、したら花瓶、割れよって、そんでもうはらわたが煮えくりかえってな、こいつのはらわたもえぐって引っ張り出してやろかと思て、ちょうど台所やったから包丁だして、突きつけてやったらな、ひっくり返ってもう陸に上がった魚みたいになって、頬のあたりなんか血まみれになって、片方の目も開かんくなっとって、なんか面白かったから、その目のあたりに包丁、刺したんやけど、したらな、もううわーだとかぐあーだとかそんなこと叫んで、リビングの方に行って、それから玄関の方向かってもうたんやけど、もう真っ赤な血がな、どろどろ流れてきて、お気に入りのな、カーペットにたらしてな、癪やからもう片っぽの目も潰してやろ思て、玄関に先回りして、何本かあるうちの傘んなかからな、ほら、傘って増えるやん、なんか傘持たんで出かけた日に限って雨なんか降るから向こうで買ってな、そんで持って帰ってくるからどんどんたまってな、ほんでその傘んなかからな、いちばん先の細いやつ選んでな、それで、もう片っぽの目ん玉に思っきし刺してん、ほんだらもう目も見えないからな、扉の位置もわからんで壁づたいにうちから逃げようとするんやけど、なんで逃げようとするんかようわからんけどな、ぎゃーぎゃー言いながらまったくもういい年になって恥ずかしくもないんか、赤ん坊みたいに騒ぐから、そんならオムツ変えましょねゆうて、引き倒してズボン脱がしてな、暴れるんやけどこの人もう腕ないからな、切り取ってしもうてな、昔、うちがやで、せやから片腕しかないからどうしようもできずな、そんで、パンツまで脱がしてな、包丁で今度はちんぽこ切り取ってやって、それがさっと切れる思てたんやけど、そうもいかんくて、サツマイモ切る時みたいになんどもこう上下にやってな、そんでやっと切れて、ほんで汚いもんやろ?あれ、せやから口ん中入れてやって、おいしいかおいしいかゆうてもうなんか叫び声も声にならんくて、もうリビングから玄関までほんま血だらけになってもうて、もうイライラしたから、やったろー思て腹んとこに思っきし包丁さしてな、けど一度や死なんくて何度も刺してな、そしたら死んでもうてん、いったいどんな面白いラジオ、聴いとったんやろか。

きみ

 

 

    フォークがあって、その四つある先端のうち、いちばん右側の先端で、とうもろこしの粒をひとつずつ刺して、ひとつずつ食べるきみがある。きみといったら肉塊の、その牛だか豚だかの肉塊の、その上に乗っかってる、というかもたれてる、というかだらしなく寝転がってる、それもきみなんやろ。目ん玉みたいでなんだかきみ悪い。きみの目ん玉はかわいいよ。いや目ん玉みたいなんがきみなんやけど。きみの目ん玉はくりくりしててかわいい。きみみたいにかわいい。いやそのきみはきみ悪いけど。いやきみは悪くないよ。きみは目ん玉がよく動くよな。目ん玉、器用に動かす才能があるんやろな。その黒目の、黒くないところ、黒くないとき、ちょっと太陽が落ちてきたとき、すっごく綺麗な色してる。おじいちゃんちの本棚、数十年ぶりくらいによく擦って磨いて白熱電球、反射するくらいまでしたときの色みたい。きっと高い木、使っとんのやろな。きみの黒目は白目の上、泳いでるみたいによく動くよな。泳ぐゆうてもマグロみたいなのちゃうくて、なんやろ、アメンボみたいな。いや、アメンボってあれ泳ぐっていうんやろか。まあ、フライパン揺らしたときに、フライパンの上で揺れるきみみたいな、そんな泳ぐきみの目ん玉、綺麗やけどちょっときみ悪い。

 

 

 

終夜列車が降る

 

 

 

 

    終夜列車が降る。透明な瓶の透明じゃない部分で惑星を叩く。雨は少しあなたを濡らした。月は路肩に落ちている。別れがあなたの口から漏れた日に。終夜列車は降った。わたしをすこしかすめて。空のずっと向こうの方から。ただ無数の悲しみを連れて。消えることだけを決意した日に。終夜列車は降った。

降りそうだ

 

 

 

てるてる坊主を育てていたんだ。水槽の中で。でもね、死んだよ。あいつ、泳げなかったんだ。水槽の中で溺れ死んだ。たぶん呼吸ができなかったんだね。そしたらね、降ったよ。やっぱり降った。あいつのせいだよ。死んじゃえばいいのに。もう死んでるんだけど。

 

 

降りそうだな。

 

 

遠くで聞こえる雨の音。きみは遠くで聞こえる雨の音を知ってる? ぼくは知ってるよ。美しいものさ。いや、美しいものとは、遠くで聞こえる雨の音なんだってさ。そう。遠くの雨の音。美しいだろ。じゃあさ、きみは聞いたことあるかい? 遠くの雨の音を。ほらね、やっと気が付いた?

 

 

きみはいま部屋の中にいる。あたたかい部屋さ。ベッドもあって布団もある。きみはそのぬくもりの中でまどろみに包まれるんだ。すると聞こえてくるだろう? 遠くの雨の音さ。水滴が落ちてきて砕ける音さ。そして美しいものを手にするんだ。そこできみは想うだろう。ああ、遠くで雨の音が聞こえる、ってね。

 

 

なんだか降りそうだ。ひとりぼっちの帰り道。悲しくて寂しくて、どうしようもない気持ちになった。そうしてイヤホンで耳を塞いだ。だけどどうしてだろう、悲しい歌を聴きたくなったんだ。降ってきた。降ってくる。ぼくは傘を空に向けて開いた。水滴はぼくの上に落ちてくる。ピアノの音の切れ間から、雨粒が弾ける音が聞こえてきたんだ。その時ぼくは想ったよ。遠くで雨の音が聞こえるな、って。

 

 

てるてる坊主を育てよう。いつかのぼくらの救済のために。理由もなく泣きたいときのために。ぜんぶ雨のせいにしよう。でもねいつかぜったいに、水槽の中を泳がせてやるんだ。

ゆるふわ日記です。

 

 

    十二月。肌を突き刺す冷気。やる気のない太陽。ただ悪戯な風。でかい犬。首のあたりを紐で繋がれた二匹のでかい犬。金色の犬と白い犬。裸で裸足で寒くないの不思議。煙突から出て天に達して空を覆った煙。太陽の死。落ちる雨粒。傘を開く通行人。傘を開かない通行人。傘を持たないでかい犬。目の下くらいまで深くフードかぶってる人。ヘッドホンの中にある誰かの詩。誰かのピアノの音。太陽の詩。雨を望む人。雨が降ると人はお別れの言葉を言うの不思議。天気によって変わる気分。雨に溶かされるわたがし。雨に溶かされるわたがしみたいな気分。

 

    焼きいも売ってるおっさん。かわいい女の子だったら買ってた。ポケットに小銭は入ってない。じゃがいもなら入っているけど。でっかい犬のお散歩。連れて歩くならあの白いやつ。渋谷の忠犬は雨の日でも駅前に鎮座。裸の男女。とっても愉快な男女。大きな声で楽しそう。クリスマス前の喧騒。でっかいトナカイのお散歩。引かれて飛ぶなら綺麗なあいつ。立派な角が素敵。そこら中カラフルな電球。ちかちかしてちょっとまぶしい。焼きいも売ってるおっさん。お店の前はちょっとあったかい。かわいい女の子だったら買ってた。

 

    こんばんは。ゆるふわ日記です。

    

正義の完成

 

 

    春を札束に変えた女は乳母車を線路に置いた。一瞬の虚構の快楽によって創造された忌わしい物体を一瞬のうちに無限の快楽へと変えるためだ。乳母車には最上の装飾を施した。花柄模様の布を取り付け、中には色とりどりの花を丁寧に置いた。絶えずいい匂いのする幸福な籠だ。女が最も大切にしていた豪華な燭台も置いた。そして美しい硝子をたくさん詰め込んだ。簡単に割れてしまいそうな色彩硝子や薔薇色のや、紅いのや、青いのや、魔法の硝子、天国の硝子を。その上に唯一、醜く忌々しいその物体を乗せた。女は死を経験したことがなかった。それ故に死の存在を肯定することができず、とある物体に死を経験させることが背徳行為であるなどとは認識しなかった。ただ線路上の乳母車、その聖なる芸術を見据えるのみであった。女が処女だった頃の果実のような頬と深く染められた黒色の瞳は驚くほど美しかった。彼女の愛情を欲する者も少なくはなかった。しかし純潔を奪う邪悪な行為によってそれは腐敗し、濁り、彼女のそのどんな宝石にも替え難い悠久の愛情も、接吻も、その肌も肉体も、わずか数枚の札束の価値しかなくなってしまった。太陽が地平線に沈もうとしている。息が白くなるような冷たい日だった。蝋色の煙を噴き出しながら汽車は線路上を駆けてきた。汽車とは無情なもので引かれた線路の上をただ辿るのみでほんの少し逸れることさえ許されない。回転する車輪が金属と擦れる音がこちらへ近付いてくる。黒く仰々しいその機関車を女は完全なる死の象徴であると認めていた。生を奪う行為、その最も名誉な行為を女はその魔法の機関車に譲った。汽車は線路上の乳母車を確認するとすぐさま甲高い絶叫を放ち自らの速度を落としにかかった。しかしどれほど強く車輪に歯止めをかけても、汽車は乳母車の手前で止まることなどできないことを女は知っていた。その死の慟哭に誘発されたように籠の中から悪魔の泣き叫ぶ音が聞こえた。耳を塞ぎたくなるほどの不快な音だ。汽車は暗黒の煙と死の慟哭を連れてその芸術的破壊を創造するのに充分な速度で悪魔を乗せた美の揺籠に衝突した。花びらが宙を舞い、色とりどりの硝子は橙色の光を浴びて煌めき、真紅の液体が飛散し彩った。それは最も美しい刹那の絵画であった。女は一瞬にして無限の快楽を味わったのだ。女は死の存在を絶佳として肯定した。この世で唯一の完全な美を独り占めにしたのだ。これ以上の幸福があるだろうか。女の頬は釣り上がり漏れる笑声を堪えることができなかった。辺りは紅く染まり飛び散った肉片には硝子の欠片が突き刺さり花びらが添えられた。女は砕けた燭台の皿の部分を拾い、用意していた蝋を取り付け火を灯し、人生は美しくなければ、そう呟いた。正義の完成である。芸術は狂気を孕まなくてはならない。時に死は最も美しい芸術の形であるからだ。美しく彩られた死を目撃したものはその魅力に取り憑かれ逃れることはできない。太陽が堕ちると硝子の破片は冷たい風を受けて揺れる燭台の炎を映し静かに紅い涙を流した。

架橋の反映

 

  

    海の端というか海の終に架かる橋の上を歩く二人がいた。気温は低かった。二人はおそらく恋人の契を交わしたか交わしていないかともかく至極親密な関係であろう。その日は天気がよくて星空を覆う雲というか星空に覆われる雲というかとにかくそのあたりから雫か露か涙かおそらく球形の液体が絶えず落ちてきていた。二人が歩きながら飲んだものは缶ビールであった。それは第二でも第三でもなく第一のビールだ。太陽がちょうど死角に入ろうかとする時刻である。円形の海を囲う陸の向こう側にキリンの群れが揃って首を傾けた。車輪が回転していた。高速で回転する車輪が鉄の塊を乗せ轟音と突風を引き連れ次々に二人の横を過ぎ去っていった。それは音と無音を同時に連れてきた。遠くでまたとてつもなく大きな車輪がひとつゆっくりと回転していた。車輪の端には等間隔でゴンドラが取り付けられておりそこに人が乗るらしい。車輪は彩られた光を放ち、海の端というか海の終の水面がそれを反射していた。青や赤や、色色な色の絵の具を一滴ずつ水上に落としたように滲んで、ぼやけて、風がそれを揺らしていた。車輪のまわりには高く聳える人間の巣がどこまでも連なっていて、細い筆の先でそっと触れたくらいの小さな光が不規則に光っていたり光っていなかったりしていた。それが遥か彼方まで続いている。その一枚の絵画の中でも車輪は一際美しく輝いていた。虹色に光を放つ車輪は彼のゴンドラにかなりの頻度で恋人同士である人間の二人組を乗せるという。恋人たちは綺麗な夜の景色に酔いしれるだろう。そして恋人たちは虹色の橋とその流線形の光を目にするのだ。海の端というか海の終に架かる虹色の橋の上を歩いていた。美しいものは時に視界に入らないほど近くにある。遠くに焦点を合わせるあまり見失ってしまうことがある。ゴンドラの中の恋人たちは虹色の車輪を見ることができず、虹色の橋を渡る者にはその流線形の光を見ることができない。ただ手の中にあるカメラだけがそのことを知っている。遠くの光に向けたはずのレンズがいつの間にかわずか隣にある最も美しいものを写していた。それが最も大切なものであった。第二でも第三でもなく第一に大切なものだ。それは流線形の光を浴びてその瞬間に存在したあらゆるものの中で最も美しかった。ただ海の終というか海の始まりの水面が虹色の光を映し揺れていた。

夏休みの島

 この島の海はすべてソーダ水です。この島は毎日が水曜日だけど、ここはずっと夏休みなのでいつもお休みです。この島ではゆったりと時間が流れます。この島はすべてがまっしろです。

 ある日、貝殻を集めながら白い砂浜をお散歩していると、自動販売機さんが元気に話しかけてくれました。
 「お嬢ちゃん、今日はとくべつ暑いから喉が渇いたろう。ジュースでも飲んで休憩しないかい」
 「あら自動販売機さん、ごきげんよう。今日も暑い中ご苦労さま。そうね、ちょっぴりやすんでいこうかしら」
 「そうかいそうかい、いらっしゃい。サイダー、ラムネ、ソーダ水、なんでもそろっているよ。どれにするかい」
 「あら、どれも同じにみえるけれど……。それじゃあこのお腹がくびれた瓶のをひとつくださいな」
 「まいどあり」
 そうして貝殻を三枚あげると、自動販売機さんはお腹をぱかと開けて、瓶を手渡してくれました。透明な玉をカタンと押し込むと、プシュと海の水が溢れ出してきました。それを慌てて口にふくんで、ほっぺたいっぱいにふくれたソーダ水をごくりと飲み込むと、ますます元気になって、また歩きたくなってしまいました。
 「お嬢ちゃん、もう行くのかい」
 「今日はとってもお天気がいいから」

 今日ものどかで静かな島をのんびり歩きます。誰かが窓を開けてピアノを弾いているのが遠くから聞こえてきます。聞いたこともないのにどこか懐かしい音色でした。空にはわたがしのような入道雲が浮かんでいてとってもおいしそうです。そうして島を半周くらいしたところで、しゃぼん玉がとつぜんわたしの目の前に浮かんで、それからぱっとはじけて消えてしまいました。しゃぼん玉がやってきた方向を見ると、ひとりの少年と目が合ったのです。少年はわたしよりもすこし大きくて、髪の毛はまっくろで、お月様のような綺麗な瞳をもっていました。
 「何をしているの」わたしは尋ねました。
 「しゃぼん玉のひとつひとつに名前をつけているんだ」少年がそう言うと、海からやってきた甘い風が吹いて、わたしと少年の間のしゃぼん玉がいっせいにはじけました。少年は輪っかに息を吹きこむと、輪っかは透明で七色の球体をたくさん吐き出しました。
 「あれがビリー、あれがマクマーフィ、なんてね」少年はひとつひとつ指をさしながら名前をつけてゆきました。最後にわたしのことを指さして「君は」と言いました。そのとき、どうしてだかそれがわたしに対しての言葉だとは思えなかったのです。わたしは手に持っていた瓶に口をつけて中の液体を飲みほしました。そうすると瓶の中で海色の球体がカランと音をたてました。
 「これはなんですか?」わたしは少年に尋ねました。
 「それは海のかけらさ」少年はわたしに言いました。
 瓶の底を空に向けると、瓶はその球体をカタンと吐き出しました。それを海の方へかざしたときに初めて、海がどこまでもどこまでも続いていることに気がついたのです。そしてわたしは少しだけ、海の向こうへ行ってみたくなったのでした。
 「満月がいっとう綺麗な日に、はじけた波が飛び散ってできた水玉が、満月の真似をしてそのまま固まっちゃったのがそれだって、聞いたことがあるんだ」そう言って少年も海の方へ視線を向けました。

 海の結晶をだいじにポケットの中へ入れて、しばらく歩くと、今度は送水管さんに出会いました。送水管さんはとっても大きなふたつの目をもっていて、背も高く、いつもタキシードを着ている島いちばんの紳士です。
 「送水管さんこんにちは」
 「ごきげんようお嬢さん、おつかいですか?」
 「いいえ、ただのお散歩よ。そうだ、送水管さんに教えてほしいことがあるの」
 「そうですか、なんでしょう、わたしの知っている限りのことなら」
 「海の向こうにはなにがあるのか、知りたいの」わたしがそう言うと、送水管さんは手を目の下に当ててうーんと唸ってしまいました。
 「わたしは生まれたときからこの島にいますので、海の向こうに何があるのか存じません。ごめんなさい。それに、海の向こうに何があるのかなんて考えたこともありませんでした」
 送水管さんでも知らないなら、わたしが知らないのも仕方ありません。しかし、ますますわたしは気になって、ポケットの上から球体を握りしめました。
 「そうですね、丘の上の時計台さんに聞いてみてはいかがでしょうか。あの方なら知らないことはないはずです。よかったらわたしが丘の上までエスコートしましょう」
 「本当ですか?ありがとう」わたしと送水管さんは時計台さんのところへ向かうことにしました。

 ふたりで丘の上を目指して歩いていると、今度は冷水器さんに会いました。
 「冷水器さんこんにちは」
 「なんだお前らふたりして、こんなところ何もないぞ」冷水器さんはとてもクールな方です。
 「時計台さんのところへ行くの」
 「時計台?あんな老いぼれに何の用があるんだ」
 「聞きたいことがあるの。時計台さんなら知らない事はないと思って」
 「聞きたいこと?わざわざ丘を登ってまで知りたいことがあるのか?」
 「そう。海の向こうにはなにがあるのか知りたいの」
 「海の向こう?それはつまりこの島から出たいってことか?」わたしははっとしました。海の向こう側を見るためには、この島から出なくてはならないことに気付いたからです。
 「そういうことじゃないけれど。でも見たくなったのです」
 「俺は知っているぜ、海の向こうに何があるのか、そしてどうしたら向こう側に行けるのか」
 「本当ですか?教えてください!」
 「いいだろう、ただし、俺を持ち上げられたらな。俺を持ち上げられたら海の向こうに連れていってやろう」それを聞いてわたしは冷水器さんの足元を掴んで力いっぱい持ち上げようとしましたが、びくともしません。
 「お嬢さん、私も手伝います」送水管さんも力を貸してくれました。
 「だめだ、ひとりで持ち上げられなければだめだ。意味がない」冷水器さんはとてもクールな方です。わたしたちは先を急ぐことにしました。

 時計台さんはわたしが生まれるずっと前から、この島のいちばん高いところから島全体を見守ってくれています。やっとの思いで時計台さんのところへたどり着くと、鐘をごーんと鳴らして歓迎してくれました。
 「時計台さん、知りたいことがあってここまで来たの」
 「おや、綺麗なお嬢さん、知りたいこととはなんだね」
 「海の向こうに何があるのか知りたいの」
 「海の向こうまで行ってみたいのかい?」
 「行ってみたい!海の向こうへ行ってみたいわ!でもこの島から出るのはちょっぴりこわいけれど」
 「いいかい、君もいつかこの島から出てゆく日がきます。それは君が大人になるときなんだ」
 「大人になるってどういうこと?」
 「この島から出たいと思ったら、それが大人になるってことさ」
 「わたしにも大人になる日が来るの?」
 「必ず来るさ。ただ、急いではいけないよ」
 「大人になったら、この島を出ていかなくてはならないの?」
 「そうだよ、大人になったらこの島にいてはいけないんだ」


 昼なのに大きな満月が、まぶしいほどに青い空に浮かんだある日、岬に島の住人が集まっていました。しゃぼん玉の少年が島を出る日になったのです。時計台さんも丘の上から岬まで下りてきて、島全体に響くほど大きな音で鐘をごーんと鳴らしました。
 「海の向こう側へ行くの?」わたしは少年に尋ねました。
 「海の向こう側へ行くんだ」少年はわたしに言いました。
 「大人になったってこと?」
 「きっとそうだ。僕も今は、やっと大きな気分になったんだ」
 「わたしも行きたいわ」
 「今はだめだ。でも、待ってる。待ってるよ、カッコーの巣の上で
 「会いに行くわ、おしゃれな服を着て、きっと会いに行く」
 少年、いやかつて少年であった彼は、冷水器さんを頭の上まで持ち上げて、この島を出ていったのでした。ポケットから海のかけらを取り出して満月に重ねてみると、ほんのりあまい海の香りを乗せた風がそっと頬をなでて、また遠くの空へと夏を連れてゆきました。

ある日のこと

    きっとぼくら世界が虹色になったそんな世界でぼくら虹色になった。ある日の帰り道ぼくら帰ることをしていた。ぼくら帰ることをしていたのはただの帰り道だった。ぼくらそんな帰り道で頭の中にピアノの音を持っていた。ピアノの帰り道はそれでぼくら彩られた道をあるいた道はピアノに彩られた帰り道だった。そして橙色の球体がぼくらピアノの帰り道を橙色に照らしていた。ピアノの帰り道を橙色の絵の具かなんかでそれをたんまりつけた筆かなんかで塗ったなんかがぼくらピアノの帰り道で染めたのは橙色の球体だった。緑色の葉っぱたくさんつけた緑色のなんかがたくさん連なって大きな緑色のなんかになっていた。そのなかでもいちばんひとつだけ大きな緑色のなんかがあった。橙色の球体が橙色のなんかを塗ったピアノの帰り道にいちばんひとつだけ大きな緑色なんかの下でぼくらほっぺたが赤くなるような秘密をつくった。それはなんか橙色のピアノの音だった。それはなんか赤いほっぺたの帰り道でありぼくら秘密の緑色のなんかだった。透明な水みたいなんが流れてる長い青色のなんかにも橙色の球体が橙色の絵の具かなんかを一滴落として橙色がにじんでいた。それをぼくら緑色のなんかの下から眺めた。なんか透明ななんかが赤いほっぺたのあたりをそっと撫でて遠くへ行った。橙色のピアノがずっと鳴ることをしていた。透明ななんかを追ってずっと遠くまでこう視線を送ると水色のなんかがずっと遠くまで続いていてそこにも橙色の球体が橙色の絵の具かなんかを筆かなんかにつけてこう雑に塗りたくったみたいなんになっててそこに白色のなんかがいくつも浮かんでいた。橙色のピアノの帰り道はなんか大切な橙色のピアノの帰り道になった。ぼくら大きな緑色のなんかの下の秘密は大切なぼくら大きな緑色のなんかの下の秘密になった気がした。大切な橙色のピアノの帰り道で大切なぼくら大きな緑色のなんかの下の秘密はぼくらのほっぺたを赤くした。なんかすっごく細い黒色の糸が目の下についているんだけどなんかすっごく細い黒色の糸からなんか透明な結晶がなんか伝っていてなんかそれが橙色の球体が橙色の絵の具かなんかで本当に細い筆かなんかで橙色の絵の具をちょっと塗ったみたいになったそれは橙色にちょっと塗られた透明な結晶がなんかすっごく綺麗だった。すっごく綺麗だったのはなんか目の下についているすっごく細い黒色の糸を伝っている橙色にちょっと塗られた透明な結晶だった。それがすっごく綺麗だった。それがすっごく綺麗だったからぼくはそれを持って帰ろうとした。でも指がそれに触れる前になんか透明ななんかがその橙色にちょっと塗られた透明ななんかをさらっていった。ぼくらその透明ななんかを追っかけたけどなんかその透明ななんかはぼくらのこと残してずっと遠くまでいってしまった。透明ななんかが橙色にちょっと塗られた透明ななんかをさらっていった先には橙色の球体に橙色の絵の具かなんかを雑に塗りたくられた水色のなんかがあってそこに白色のなんかが浮かんでいた。そんなぼくら帰り道を帰っていた途中のちょっと帰るのをやめた帰り道だった。ぼくら橙色のピアノが大切だった。橙色のピアノの帰り道はぼくらが帰るただの帰り道で緑色のなんかの下で赤色のほっぺたの秘密をつくった。ちょっと帰るのをやめた帰り道は橙色で緑色で赤色で透明で青色で水色で白色で黒色のなんかだった。きっとぼくら世界が虹色になったこんな世界でぼくら虹色になった。