ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

    


    花屋の小娘を撲殺しようと店先まで出向いた。小娘はちょうどひとりで店番をしている最中である。小娘は私に気付くと緊張と恐怖が入り混じった何とも醜い顔面をこちらに向けた。拳を固く握りその既に腫れ上がった顔面を思い切り叩いてやる。店先に甲高い絶叫が響き、そのあまりの不快さに更に小娘の腹を殴りつけた。小娘は悲鳴を撒き散らしながら目から透明な液体を流した。ああ、美しい、この醜悪な小娘も、涙だけはこんなにも美しい。小娘はいつもの通り赦しを乞う文句を垂れ流しながら、まるで恐怖と苦痛しか感じられない眼差しをこちらに向ける。それがあまりにも憎らしくて私は彼女を叩く拳を止めることができないのだ。ああ、かつての、花屋の上品なお嬢さんはもう存在しないのか。女性は処女であるからこそ燦々と輝くことができるのだ。処女を失った途端に、どんな女性でも悪臭を放つ老婆へと忽ち変身してしまうのだ。この小娘を真白な百合の花から黒薔薇へと変えてしまったのは私だが、その瞬間から私の彼女への愛情はすっかりと消え失せてしまったのだ。
    私の腕も疲弊し彼女の浅ましい顔を見るのにも嫌気が差し、殴るのを止め花瓶を蹴散らしていると、背後でひとつの奇跡が起こった。小娘が立ち上がる気配があった。振り返るとそこには今までとはまるで別人の彼女が立っていた。生気を漲らせ、まっすぐにこちらを見つめていた。その激しい憎悪と憤怒に満ちたトリカブトの様に攻撃的な彼女の眼差しを私は初めて見た。私は怯んで体は土の様に固くなり、その場から動くことも言葉を発することもできなかった。彼女は両手に抱えた大きな植木鉢で、私に復讐の一撃を与えた。
    目が覚めた時には私は泥にまみれて天を仰いでいた。嬉しくてたまらなかった。彼女のあの眼差しを、私は忘れることができないだろう。