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ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

信号

    歩く男は青色に光っては消え光っては消えを繰り返し、暫くすると赤ワインの海へ沈んだ。目の前を秒速三十万キロの光るものに引かれて時速六十キロの光らせるものが通過した。どこかで機械の鳥が一度鳴いたきり、洞窟の出口は閉ざされた。誰かが透明な釣り糸で電球を垂らしていた。脳は脚を動かす信号を止め脚を動かすのを止めるという信号を送った。色の売人が黒にほんのり青を混ぜた絵の具を洞窟の天井に塗った。誰かが吐き出した煙草のけむりが釣りをする誰かの電球を隠した。赤ワインの海へ沈む男がこちらをじっと見つめていた。赤ワインの男は手を動かさずに手招きをした。秒速三十万キロの光るものが時速六十キロの光らせるものを連れてきた。脳は確かに脚を動かす信号を送った。右脚は信号を受け取ると宙に浮いた。そして放物線を描いて再び地に落ちた。悪戯な泥棒がテトラポットから水素原子を盗んだり他のテトラポットとくっつけたりしたものや、皮膚を覆う板状の繊維を飛び越えて、氷のように冷たい氷のようなものがその体温を伝えた。洞窟の天井から液体が一つ頬に落ちた。洞窟の天井から液体がもう一つ今度は手のひらに落ちた。どこかで機械の鳥が一度鳴いた。皮膚に繋げられた黒い糸を伝ってまた別の液体が一つまた頬に落ちた。隠れていた白鯨がまた姿を現した。白黒の帆を靡かせた船がそれを追っていた。しかし少女が揺れない風鈴をいたずらに鳴らすように静かに息を吹きかける映像が光ではない別の光に似たものが信号となって瞼の裏のスクリーンに映し出された。そんなビー玉のひとかけらががわずかな時間の隙間にあった。脳ではない誰かが脚を動かす信号を遮断し脚を動かすのを止める信号を送った。視線と意識の先に血まみれの男が倒れていた。脳はひとつの泡沫に信号を送った。ひとつの泡沫はひとつながりの糸へ信号を伝えた。信号はひとつながりの糸を通って指先に辿り着いた。指先は赤いボタンに信号を放射した。赤いボタンに伝えられた信号は雪国のトンネルの中を駈けてトンネルを抜けた先で倒れている血まみれの男に寄り添った。時速ゼロキロの光らせるものは秒速三十万キロの光るものを引き止めた。色の売人は洞窟の地面に白い線をいくつか描いた。機械の鳥が今度は頭の上で鳴いた。洞窟はいつの間にかトンネルになっていた。少女は息を吹きかけるのをやめない。誰かが吐き出した煙草のけむりも、白鯨とそれを追いかける船も、少しずつ前へ進んだ。透明な釣り糸を垂らす釣り人の電球がほんの少し顔をだした。そんな映像がスクリーンに映し出された。脳は脚を動かすのを止める信号を止め、脚を動かす信号を送った。そんなビー玉のひとかけらがわずかな時間の隙間にあった。青色に光る男は再び歩き出した。