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ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

火曜の晩

    火曜の晩、地獄の判事である私は神秘不可思議な衝動を神から与えられた。正しく忌むべき罪人を裁く権利を手にしたに等しい。私は神より授かりし処刑の令状を片手に火曜の晩の酒場街を見回っていた。火曜の晩にはそれが火曜の晩であるにも拘らず、炎に集う害虫の様に醜い者達が蠢いていた。火曜の晩に集う者達をどれほど心の広い神ならば赦すことができるだろう。私はこの害虫共を一匹残らず殺傷する使命を与えられているのだ。背広を着た男、声の煩い女、乞食、悪臭を放つ老婆、耳障りな弦楽器を鳴らす浮浪者、目に入る人間は皆処刑の対象であった。そんな中、視界に入った瞬間に全身の血液が煮え滾るほど一際憎い害虫がいた。赤い髪の女だ。火曜の晩で赤い髪の女を見て殺さずにその場を後にできる者が果たしているだろうか。神は赤い髪の女を赦すことはできない。地獄の処刑人も判事も赤い髪の女を赦すことはできない。私は神の使いとして、地獄の判事として、火曜の晩の処刑人として、強く拳を握り、血管を浮かせ、赤い髪の女に近付いた。そしてもう一歩で私の拳がその顔面にぶつかるかというところで、赤い髪の女は私の明確な殺意の眼差しに気付き、駆け出したのだ。私の殺意は天に達していた。赤い髪の女への憎悪が渦巻きそれは神の意志となった。赤い髪を自らの血液で更に赤く染めてやろうと、握った拳を爪が手のひらに食い込むほど強く握り直した。腹を引き裂いて内臓を取り出し塩をかけてやれと、神の御達しだ。赤い髪の女は処女ではない、何故なら髪が赤いからだ。処女でない女は死なねばならない。そしてついに女の襟を掴んでやろうとしたところで、赤い髪の女は突如振り返って叫ぶように言った。なんですか、と。その時、私のいる世界は火曜の晩ではないことに気が付いた。そこは先程の火曜の晩の酒場街ではなく、人工的な白い光で満たされた絶望の空間であった。どういうことか足が竦み、赤い髪の女の顔面を殴って眼球を抉り髪を赤く染めることや内臓を取り出し塩を振り炙って食うことができなくなった。火曜の晩は火曜の晩ではなくなったのだ。いや私が今迄火曜の晩だと思い込んでいたものが実は火曜の晩ではなかったのかもしれない。赤い髪の女は再び私に背を向け歩きだした。それを追うことはもうできなかった。火曜の晩とは幻想だったのか。白い光に包まれた空間では、赤い髪の女はとても美しかったのだ。