ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

降りそうだ

 

 

 

てるてる坊主を育てていたんだ。水槽の中で。でもね、死んだよ。あいつ、泳げなかったんだ。水槽の中で溺れ死んだ。たぶん呼吸ができなかったんだね。そしたらね、降ったよ。やっぱり降った。あいつのせいだよ。死んじゃえばいいのに。もう死んでるんだけど。

 

 

降りそうだな。

 

 

遠くで聞こえる雨の音。きみは遠くで聞こえる雨の音を知ってる? ぼくは知ってるよ。美しいものさ。いや、美しいものとは、遠くで聞こえる雨の音なんだってさ。そう。遠くの雨の音。美しいだろ。じゃあさ、きみは聞いたことあるかい? 遠くの雨の音を。ほらね、やっと気が付いた?

 

 

きみはいま部屋の中にいる。あたたかい部屋さ。ベッドもあって布団もある。きみはそのぬくもりの中でまどろみに包まれるんだ。すると聞こえてくるだろう? 遠くの雨の音さ。水滴が落ちてきて砕ける音さ。そして美しいものを手にするんだ。そこできみは想うだろう。ああ、遠くで雨の音が聞こえる、ってね。

 

 

なんだか降りそうだ。ひとりぼっちの帰り道。悲しくて寂しくて、どうしようもない気持ちになった。そうしてイヤホンで耳を塞いだ。だけどどうしてだろう、悲しい歌を聴きたくなったんだ。降ってきた。降ってくる。ぼくは傘を空に向けて開いた。水滴はぼくの上に落ちてくる。ピアノの音の切れ間から、雨粒が弾ける音が聞こえてきたんだ。その時ぼくは想ったよ。遠くで雨の音が聞こえるな、って。

 

 

てるてる坊主を育てよう。いつかのぼくらの救済のために。理由もなく泣きたいときのために。ぜんぶ雨のせいにしよう。でもねいつかぜったいに、水槽の中を泳がせてやるんだ。