ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

理想の彼女

 

 

彼女はステンドグラスを通った色とりどりの光を全身に浴びながらステンドグラスの破片を全身に浴びた。彼女は死んだが、彼女の死を誰も悲しまなかった。彼女はファミレスに大型犬の死体を持ち込んだ日から精神科に通わされていた。彼女は日頃から全身にマーガリンを塗っていたため、野良犬や野良猫、ハトや千種の虫たちがいつも彼女の周りに集っていた。しかし彼女の体に少しでも舌を接触させると、そのあまりの不潔さにどんな大型犬やアフリカゾウも忽ち死んでいった。九つ目の精神科から追い出された日、彼女は完全に孤立した。そのあまりの悪臭から、彼女の家より半径一キロメートル以内は避難区域に指定された。彼女への生活保護は途絶え、水道、ガス、電気も全て止められてしまった。新聞配達員の若者もヤクルト売りの中年女性も彼女の家に辿り着くことは出来なくなった。彼女が百メートル以内にいると、人間はあまりの悪臭によって一秒以内に死亡し、灰になってしまうのだ。彼女の放つ臭いは牛と豚千頭分の死体と新鮮な生魚と生ゴミと全世界に生息する馬の十年分の糞を一度に同じゴミ収集車の中に詰め込んだようなものだった。人々は彼女を恐れ、世界規模のニュースになった。自衛隊や米軍も彼女の前には無力であった。上空から攻撃しようとするも、彼女の真上に差し掛かる前にどんな戦闘機も墜落した。世界中の軍艦が日本の近海へ集っていたが何もできなかった。彼女の悪臭は日に日に酷くなった。北関東全域が腐敗し立ち入ることができなくなり、二百万人の人間が死んだ。そしてその範囲はついに首都圏にも差し掛かろうとしていた。国際会議が開かれすぐに決断が下された。米国最大の核爆弾を彼女の家に落とすというものだ。国民も大多数がこれに賛成した。反対しているのは脳の腐った老人だけだ。政府は核を落とすことに反対した老人を片っ端から処刑した。そしてついに決行の日となった。全日本国民が心から待ち侘びた日だ。核が落ちる様子は全国でテレビ中継されることになり、誰もがテレビの前で日の丸の旗を振った。中には涙を流しながら喜ぶ者もいた。カウントダウンが始まった。街はお祭り騒ぎだ。大人も子どもも朝から酒を飲み、シャブを打った。世界中の人間が夢に見た幸せがもうすぐ訪れる。眩しいほどの青空に見事なキノコ雲があがった。それから爆風が世界中を駆け抜けた。人間はひとり残らず死んだ。日本列島は沈没し、他の国も一面焼け野原になった。誰もが夢見た理想の世界だ。とある近所のクソガキが落ちている石を爆弾に見立てて投げた。彼女はステンドグラスを通った色とりどりの光を全身に浴びながらステンドグラスの破片を全身に浴びた。彼女は死んだが、彼女の死を誰も悲しまなかった。彼女の死体は強烈な悪臭を放ち始めた。