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ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

架橋の反映

 

  

    海の端というか海の終に架かる橋の上を歩く二人がいた。気温は低かった。二人はおそらく恋人の契を交わしたか交わしていないかともかく至極親密な関係であろう。その日は天気がよくて星空を覆う雲というか星空に覆われる雲というかとにかくそのあたりから雫か露か涙かおそらく球形の液体が絶えず落ちてきていた。二人が歩きながら飲んだものは缶ビールであった。それは第二でも第三でもなく第一のビールだ。太陽がちょうど死角に入ろうかとする時刻である。円形の海を囲う陸の向こう側にキリンの群れが揃って首を傾けた。車輪が回転していた。高速で回転する車輪が鉄の塊を乗せ轟音と突風を引き連れ次々に二人の横を過ぎ去っていった。それは音と無音を同時に連れてきた。遠くでまたとてつもなく大きな車輪がひとつゆっくりと回転していた。車輪の端には等間隔でゴンドラが取り付けられておりそこに人が乗るらしい。車輪は彩られた光を放ち、海の端というか海の終の水面がそれを反射していた。青や赤や、色色な色の絵の具を一滴ずつ水上に落としたように滲んで、ぼやけて、風がそれを揺らしていた。車輪のまわりには高く聳える人間の巣がどこまでも連なっていて、細い筆の先でそっと触れたくらいの小さな光が不規則に光っていたり光っていなかったりしていた。それが遥か彼方まで続いている。その一枚の絵画の中でも車輪は一際美しく輝いていた。虹色に光を放つ車輪は彼のゴンドラにかなりの頻度で恋人同士である人間の二人組を乗せるという。恋人たちは綺麗な夜の景色に酔いしれるだろう。そして恋人たちは虹色の橋とその流線形の光を目にするのだ。海の端というか海の終に架かる虹色の橋の上を歩いていた。美しいものは時に視界に入らないほど近くにある。遠くに焦点を合わせるあまり見失ってしまうことがある。ゴンドラの中の恋人たちは虹色の車輪を見ることができず、虹色の橋を渡る者にはその流線形の光を見ることができない。ただ手の中にあるカメラだけがそのことを知っている。遠くの光に向けたはずのレンズがいつの間にかわずか隣にある最も美しいものを写していた。それが最も大切なものであった。第二でも第三でもなく第一に大切なものだ。それは流線形の光を浴びてその瞬間に存在したあらゆるものの中で最も美しかった。ただ海の終というか海の始まりの水面が虹色の光を映し揺れていた。