ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

僕は詩を書きたい

幻想世界の老婆という生き物が気になって仕方ないんです。老婆の膣からは黴臭い下水の匂いがすると聞いたことがあるのですが、僕は黴臭い下水の匂いを嗅いで射精をしたことがあるのでたちまち気になってどうしようもないんです。化学兵器のやばい毒で、世界中の二十歳以上の人間が絶滅したので、老婆というものは空想上の生き物になってしまいました。それに僕たちは二十歳になった瞬間に死ぬので老婆が出現するのを待つ時間もない。老婆とは一体どんなものなんだろう。ある瞬間から突然体が朽ち果てて老婆になるのだろうか。僕たちは老婆に魅了されて仕方ないんです。ところで、馬が空を飛べる時代になって本当によかったです。しかしながら権力に抗うことを僕はしたい。いや、するべきだ! 人を殺すことでしか、得られない快楽を手に入れよう! あの象は何色なの? あの象は何色なの? とひたすら叫んでいる少女が見えます。まさか、あれが宝石のついたベールを纏う花嫁? いや、クラゲ? 波打ち際に到達する波が砂粒を運んでくる。空の大地の境における影の濃淡が、神の死を現している。革命だ。老婆がいないと僕たちなにもできないじゃないか。老婆に猿の血液を輸血したら、死ぬのか? それとも、老婆以外のすべてが、死ぬ? ともかく、老婆の絶滅は嘆かわしいことです。老婆の代わりに、僕たちが死ぬべきだった……。しかしながら、美しいものは常に破壊によって生み出されるのだといつも思います。それは死ぬこと以外で苦痛から抜け出せないことに似ていますよね。結局この星の偉い奴らは、みんな宇宙からきた侵略者なんです。老婆がいない世界で、美しいものはどこに……? この世で最も醜いものは処女だと思うんです。処女の人形を散歩させていたとき、ある絵画に出会ったんです。それは、老婆の美しい肉体と動物たちの死骸を描いたもの。僕は忽ち人形にゲロを吐きかけて、膣面をトレースしてできた穴に小石を詰め込んだんです。それから僕は小石を主食とする動物を探し続けて、ある電脳生物のもとにたどりつきました。ピンクの月ウサギです。ピンクの月ウサギの内臓をすりつぶした後、数日放置。それを食べると、とても臭い。それから処女の膣に石を詰めてまわったんです。そうすることで、老婆を再生することができると信じて……。処女は樹木に似ていますよね。なぜなら燃えるから。処女に石を詰めて燃やすと石が残ります。それがこの処女石です。処女石を無数に集めることで光り輝く老婆を産出できるのではと考えました。神のお告げがあったから。いや、正確には神ではなく、宇宙から電磁パルスを通じて重力を司る主。便利な時代になったものです。脳に電波を直接つなげて通信できる時代にはなりましたが、僕は金がないので脳にチップを埋め込む手術をすることができず、孤独に宇宙の主から真実を受信するのを待つことしかできないのです。二十歳で僕らは死ぬので、繁殖をしたいものはそれまでに、妊娠と出産をする必要があります。しかしそれでは人口は減っていく一方なので、どうしようもないんです。そこで人は象や牛やクマなどの子宮に人間の受精卵や胎児を移植し、効率的な繁殖に成功しました。僕たちのほとんどはその子どもです。ちなみに僕の母親は豚。そのため僕はやや豚に近い見た目をしている……。現代医学の勝利。僕は豚の子で、母親は肉塊に。僕らは母親の肉を食って生きたのです。キリストの十字架像や聖画に向かって、ダンスを踊るのが毎日の習慣です。海の底に沈んだ島国に住む人々からは、この月が見えるのでしょうか。海の底まで月の光は届くのでしょうか。届いたとしても、水面のあたりでゆらゆらぼやけて見えるのだろうか。そんなことを考えながら、処女らしき女を撲殺しています。処女を撲殺する際、相手が処女であるかはそこまで問題になりません。なぜなら、たとえ処女でなくても醜いから……。そこから月は見えるか? そこから月は見えるか? と聞きながら何度も殴ります。しかし見えるはずがない。昼なので。そんなに月が見たいなら宇宙へ行きなさい! と叫びながら僕は処女を海へ投げ捨てます。しかし全く満たされることのない僕の欲望。老婆に会いたい。この大都会にはもはや希望は存在しない。陰鬱だ。ゴミがそこら中に散らばっていて、動物の死体だらけ。疫病が蔓延し、人の死体も散乱。人は二十歳の誕生日を迎える瞬間に爆散して死ぬのだが、それに合わせて家族や友人たちはハッピー・バースデイの歌を歌います。なんと素晴らしい。奇跡のような時間。あたたかい、ぬくもりを感じる。月明かりに照らされて、肉片が輝く。僕たちは死から免れることはできません。爆死を避けるために、自らの首から上を切断し、頭を切り落とした動物の体に移植した者もいましたが、むなしく爆死。豚の体ごと爆散したのです。反対に、人の頭を切り落として豚の頭を移植した者もいました。これは爆死を免れたが、完全に豚として生きています。春風が心地よい。永遠の命を手に入れようとした罰だと思います。電脳老婆を強姦しても満たせない欲望。しかしながら、イルカの脳姦は素晴らしいものでした。イルカを生きたまま陸にあげ、頭に穴を空け、脳と愛し合う。イルカの脳と通じ合った僕は、真実を見る目を手に入れました。殺人は悪である。戦争は繰り返され、路上に並ぶ無数の死体。牛にペンキを塗ってカラフルな牛を量産。赤い牛、緑の牛、黄金の牛。彼らが交尾をした結果、極彩色の牛が誕生。しかも、巨大です。クジラを丸呑みできるほどに。まるで少女の夢みたいですね。そこには首を吊る数百の死体が高速で回転しながらプリンを焼き、産卵。幻獣と化した老婆。老婆の膣は完全なる宇宙なのか? 僕はゲロを吐くとき真上を向く癖があるので、すべてが自分にかかります。でもそれはゲロを吐くときに必ず夜空を見たいから。瞼の中にゲロが入ると沁みますが、ゲロ越しの夜空はとても美しいんです。老婆の膣は「叫び」にも似ているのではないかと思います。可視化されない叫びとなって、この宇宙全体を満たしているのではないでしょうか。まるでエーテルのように。将来を奪われているわけですから、生きる意味もなくなるんでしょうか。おやめなさい。生きるのをおやめなさい。僕たちは戦争で使われた化学兵器の被害者なんです。人体実験の被害者でもあります。敗戦国だから仕方ないですね。僕は詩を書きたい。老婆に向けて詩を書きたい。老婆ちゃん、待っててね。老婆はどんな姿をしているのでしょうか。陶器の皮膚をもった白馬? それとも首の長いダイヤモンドの龍? 電子の世界でしか会ったことのない老婆、あなたに会いたい。溶けた鉄を膣に流し込みたい。そうして形成されたものは必ず聖なる剣となり、悪を斬るでしょう。目の前の少女の死体に虫が無数に集っているが、そのすべてが発光している。まるで恒星のように光を発している。子どもたちに輝かしい未来を! と叫んでいるようだ。黒い汽車が通って、死体を粉々にしていく。世界には苦痛しかないと知っていながらも、僕たちは繁殖をやめません。それはそれが最も残酷で楽しいことだからです。だから僕は何度もハッピー・バースデイの歌を歌いたい! そして踊りたい! そして何度でもメリー・クリスマスを! 窓の外をみると光の線がしつこく差し込んできます。動物の胎内をつかって無数に増殖する僕たち。動物たちには生まれてきた少女の腕や脚をエサとして与えます。これこそ無限に続く快楽であり、持続可能な社会! 都市の動脈にうねうねと流れる不快な悪臭。老婆に会うために僕は冒険の旅を続けます。プールで泳いでいると、一頭のイルカを発見。そして銃殺。僕たちは本当に幸福な時代に生まれたと思います。心からそう思います。だから毎日パレードをしています。その度に処女を生贄に捧げなければならないんです。そうでないと神が怒るんです。綺麗な花をたくさん用意して見送るんです。そうすると蝶がたくさん寄ってきます。鱗粉を撒き散らしながら。巨大なトランペットによってすべての者の脳が破壊される。どんな人も皆、密造酒と幻覚剤をのみ、処女たちを殺していく。こうすることで都市に平穏と幸福がもたらされます。処女には赤い服が似合うのです。呼吸のたびに意識が飛びそうになります。世界が絶え間なく点滅し続けて、キモいです。今すぐ内臓を取り出して、それがどんなに綺麗なピンク色をしているのかみんなに見せてやりたいです。しかしながら僕の肉体は本当に僕自身の物なのか? 電波がピカピカ見えるので空がチカチカです。孤独のうちに僕は死んでいくのだ! 生贄の少女の体から子宮を取り出して食べました。産まなければならぬのだ! 自分自身で自分自身を! それにしてもプラネタリウム内で死んだら星になれるのではないかと思いますよね。象のくしゃみを浴びたら頭が吹っ飛ぶのではないでしょうか。バニラとチョコレートとストロベリーで悩んだ時、人を殴ってしまいますよね。僕は映画館で映画をみている間、常に口笛を吹き続けるようにしています。そうでもしないと頭がくるってしまう。やっぱり誰にも見えていないのですかね、僕は。イルカに聞いてみましょう。ピピピ。老婆の乳房に耳を当てると、どんな音楽が聞こえてくるのだろうか。美しい旋律。トカゲの産卵。なぜ僕はここにいるのだろう。なぜ僕は僕なのだ? 電気を消した暗闇の中でなら、老婆に会える? 首を吊るためにロープを結んだが、輪っかに足を入れたために失敗してしまいました。そのときに見えた窓越しの逆さまの月。月はまん丸なのにどうして逆さまだとわかったのだろう。頭に血が上り、どんどん赤くなって、遠のいていくあの月……。そのときの窓ガラスの色は、僕の叫びよりはるかに透明でした。老婆の膣と完全に等しい、その透明な美しさ。老婆の膣に天井はなく、無限に続いている。宇宙の外にまで。そしてあの世の外にまで。老婆の膣をくぐって僕は抜け出したいのです。この素晴らしすぎてしまった世界から! 老婆ちゃん、あなたに会いたいです。そしてあなたに詩を贈りたいです。あなたの前で歌を歌いたいです。老婆の膣の匂いが気になって仕方ないですよ。老婆、あなたの瞳の色は何色なのですか? 僕が思うにそれは例えば、雨だまりに浮かぶガソリンの虹色の液面。もしくは、雨粒のついた蜘蛛の巣に太陽の光が差した時のきらめき。そんな色だと思いますよ。現代科学によって、神はあらゆる場所に大量にいることが判明しました。しかしそのどれもがめちゃめちゃキモくて、臭いです。見た目は、吐き捨てたチューインガムに煙草の吸殻を押し付けたものによく似ています。老婆、あなたにとびきりロマンティックな言葉を贈りたいです。真っ赤な口紅を贈るかわりに……。あなたを電脳世界から連れ出せることができるような、とびきりロマンティックな言葉を贈りたい。老婆の幻影、それを僕は追い続けていますよ。粘土を溶かした液体を少女に注射したのですが、うまくいきませんよ。代わりに大量の煙草の吸殻が入った真っ黒な水を注射します。そうすることで変形し、老婆になるのではないかと思いまして。儀式なんです。全てが儀式です。鬱屈なサーカスより、美しい儀式! 老婆よ、あなたは死んだことがありますか? 生まれたことは? パンを食べたことはありますか? 夏の太陽のばかみたいな光線を全身に浴びたことはありますか? 老婆の死体を浴槽に放置し、液状化したらその風呂に入りたいです。そうすることでしか、もう汚れたこの体に付着した無数の災いは清められないです。老婆、あなたは読んでくれますか? 僕の詩を! 僕は老婆のために詩を書きたい。化学兵器に侵されて失われた僕のからだ。僕にからだがあれば詩を書けたのに。ジングルベルの音が聞こえてきます。老婆の血液の中で溺死したいです。電脳世界から抜け出してきてくださいよ。この星の大気のすべてを老婆でみたしてほしいのです。天地創造から生命の進化、そのすべてはあるひとつの渚でなされたことなのではないでしょうか。放射能と毒で汚染された僕らの都市。月面で一緒に暮らしませんか? 処女の膣壁を切り取って全面に張り付けた僕の部屋は、とても醜いテーマパークです。爆撃機は月へ向かい、雨の降る地上では少女が惨殺されます。少女の皮膚で作られたランドセルを、また別の少女が背負います。微笑ましく、祝福されるべき光景。豚の子宮で育てられた僕は、忌まわしい記憶の中でしか生きられないのです。記憶の呪縛。宇宙からきた飛行機が僕らを殺す毒を撒きました。僕はもうすぐ爆死します。その前に老婆に会いたい! 核シェルターの中で青い服が似合う人々の奇妙なダンス。プロジェクターの光に照らされて手を振りながら踊っている人々が一斉に爆死。今日はみんなのバースデーだ! 祝福すべき、愛しき時間! 老婆の肉はどんな味がするのだろう。シーサイドにある遊園地の夕焼けで鳴るトランペットみたいな味だろうか。乞食の皮膚と銀の燭台と彗星を煮詰めて死刑囚の血と共に塗りたくった幻想的な風景。風が大気を揺らしている。僕たちは祝福しなければなりませんね。毎日繰り返されるメリー・クリスマスを! そしてバースデー・ソングを歌いましょう! 老婆の膣に入れるために、僕はずっとこの世で最も美しい天国色の硝子を探してきました。ついぞそれは見つかりませんでした。爆死して散乱する僕の生きた肉体を老婆に見せたかったです。これは老婆という幻想に対する祈りです。せめて僕に詩が書けたら! 三日月型をした僕の死んだ幻想の腐肉! 昔は老婆も水族館で展示されていたのでしょうか。死にかけの少女のからだは寄生虫だらけで、それは脳にまで達していますので、陽気な叫び声をあげながらシャベルで自分の膣を掘っています。そして掘り起こされるものはゲロや小石、自らの血肉や星空、魂の不滅など。僕は愛していますよ。正体もわからない、その奇妙なあなたを! 爆散した人々の死体に犬や猫が群がり、肉や内臓を食べています。ハッピー・バースデイ! ハッピー・バースデイ! 愛しい世界よ! 人類みな家族ですものね。なんとあたたかい、家族愛。そして僕たちを産んだ動物も、みな家族。毎日が誰かの誕生日だなんて、尊いことですよね。老婆の血を抜いて永遠に保存したいです。僕が死ぬときに必ずそばにいてほしい。老婆が好きだ! 老婆が好きだ! ぶくぶくと膨れあがった大量の死体が流れる赤く染まった川に、灯篭がいくつも浮かんでいます。すべてが儀式であり、祈りなのです。幻想の中の老婆よ、あなたに会ったら詩を贈りたいのです。はじめまして、はじめまして。ハッピー・バースデイを歌わねばならぬのです。老婆よ、あなたは処女なのか? イルカの脳はピンク色でしたよ。宇宙と交信したときに見える景色は青白い円環のループです。愛し合いませんか? 老婆の脳に穴を空けて愛し合いたいのです。僕の精液を老婆の脳の中に注ぎたいのです。殺してください。僕は詩を書かねばならないのです。愛しています! 愛しています! ピンク色のピアノの音が鳴りやみません! 助けてほしいのです! 処女の眼球に雑草鎮静剤を注いだのですが、世界から苦しみが消えてくれないのです。老婆は幻想の世界で永遠になったのですね。イルカの脳とのセックスではもう満足できないのです。カラフルな花畑で大きなシンバルを鳴らしながら動物たちと踊り、爆死! ところで海の見える部屋ならどんなに精液にまみれても溺れることはないのでしょうか。妊娠した豚を超高層ビルから落とした時、落下中に出産した赤子になら翼がはえると思ったのですが、粉々に砕け散りました。打ち上げ花火の玉からひいたロープを少女の首に括り付けそのまま高速で射出した際に夜空に描かれた大きな花を老婆にも見せてあげたいです。陸に残った少女の体には無色透明な水晶玉をのせてあげるんです。夜空には少女の頭部が爆散し、それはあちらこちらに散らばって、やがて星になるのです。老婆の腐りきった羊水の中で眠りたい。夢のない、永遠の眠り! 人々が爆散して世界に充満していく! 老婆の眼球を僕の睾丸に移植したいのです。そうして生み出される精液がどんな色をしているのか知りたいのです。きっとトンボの羽根ごしにみる夕焼けみたいな色をしているはずなんです。老婆の膣は僕の口に移植してほしいのです。そうして食べる少女の心臓の味が知りたいのです。きっと他人の遺書だけを食べて育ったクラゲのような味がするはずなんです。繰り返される引火による革命! 光が反射し続けてもはや回転しているのが見えますか? ついぞ出会うことができなかった僕の美しい老婆よ。無形のまま美しくあり続けてください。銀河の外からも、宇宙の外からもわかるその輝き。発光し続ける幻獣と化した老婆。老婆よ、あなたの右心房と左心房を僕の両目に移植させてください。それを通して見える景色がどんな光景なのか知りたいのです。僕はあなたに詩を書きたいのです! この爆散していくからだのどこからかインクが出せるものならそれで詩を書きたいのです。老婆に贈る詩を書かねばならないのです! 老婆のことを少しも知らないのでだからこそ知りたいのです。老婆の血液越しに見える星空の輝き。海に落ちる夕日の色。今こそ詩を書き始めねばなりません。このからだがどこかに存在するのならば、老婆に詩を捧げたい。僕は今から詩を作ります。ハッピー・バースデイ! ハッピー・バースデイ!

バニラパン

首を吊るのもいいし、パンを焼くのもいい。どちらか迷った結果、焼けたのがこのパンです。パンはとてもよく焼けていて、焼けすぎている。かといってゴミ箱に捨てるほどではない。ありがとう、雨が降っている。雨は晴れより少しだけ好きだがその理由は、特にない。食堂にいこう、雨だが。本当にどっちだっていいのだ。晴れていても雨でも、本当にどっちでもいい。ただ空が寒色系の色である限りそれでいい。パンをトートバッグにいれる。スカートをはいて、靴をはく。玄関を出る。クラゲの構造を知りたいと思う。ビニール傘をさしている。ビニール傘は透明なやつより、白いやつの方がいい。絶対にその方がいい。理由はよくわからない。虫の音が聞こえる気がする。ジメジメしていて、夏祭りを思い出す。コンビニでカップアイスを二つ万引きした。サイダーを万引きするか迷って、やめた。コンビニを出ると雨がやんでいた。忘れたふりして、コンビニの前に傘を捨てる。大きな樹木を見たいと思う。電柱の下に小さな丸っこい生き物がいる。黄色いアヒルだ。アヒルが、お前は海をみるべきだと言ってきた、気がした。誰かが濡れたアスファルトにスーツケースを転がしてる音が聞こえてきて、それが鈴虫の声みたいだった。どうでもよくて、トートバッグの中にアヒルをしまった。なぜトートバッグかというと、それしかもっていないからだ。 あとはいざというときすぐに離せるから。何かに引っかかったとき、わたしはすぐに手を離したい。わたしの前に突然バスが止まり、わたしはそれに乗る。昆虫を食べたい。犬を飼いたい。でかいやつがいい。このバスがどこにいくのか全く検討がつかない。とにかく、窓の外の景色以外の全てから、わたしは目を逸らしたい。昔バスで都会に出たことがある。全てのものが必要以上に光っていて、どうしようもなかった。光量がやばくて、目を細めてしまうのだ。それでもわたしは夜通し踊り続けたい。いつだって。タイヤが濡れた地面の上を転がる音とか、男女がプラネタリウムについて喋る音とか、ぜんぶどうでもよくて、かつ少しだけ心地よくて、わたしには手を握る相手がいないこと、喉の渇きをどうすることもできないこと、冷房の風が顔にあたること、ゲボがでそうなことなどを悲観しつつ、理由のわからない涙を流したり、窓の外のたくさんの植物を見たりしてる。このバスは海にいく。絶対に海へ向かってる。そうでなくても別にいい。そういえばポンちゃんは今頃どうしているのだろうか。

ポンちゃんとの出会いは商業施設の三階にある楽器屋だった。わたしが売り物のピアノでヘタクソなねこふんじゃったを弾いていたら、信じられない力で後頭部を殴られた。その時にわたしの頭の中からポンッて何かが外れる音がしたから、彼のことをポンちゃんと呼んでいる。ネコがかわいそうでしょうが、と彼は叫んで、その流れで無理矢理セックスをされた。それからポンちゃんはわたしの家にすみついた。彼は立派なサックス奏者だった。毎日六畳ワンルームのわたしの部屋で、ばかでかい音を鳴らすから、いつも上下左右の全ての部屋から壁を殴る音や怒号が聞こえてきて、それが愉快だった。わたしは彼が家に来るたびにこっそりゴキブリを放していたのを知っている。情けないなあ、君は、僕がいなきゃどうしようもないじゃないか、とか言いながら、いつも彼は畳の上でゴキブリを潰すのだった。わたしはゴキブリなんかぜんぜん苦手じゃなかったけど、苦手なふりしていた。ゴキブリよりもゴキブリの死骸の方がはるかにキモかった。そしてなによりも全然ポンちゃんの方が嫌いだった。ポンちゃんは頭がおかしいから、それが病気であれ、そしてそれが原因で死んでくれ、と毎晩思う。ポンちゃんはわたしの誕生日に巨大な冷蔵庫を買ってくれた。わたしの身長よりもはるかに高い冷蔵庫が、六畳の和室にそびえ立っていた。よくその中で眠る妄想をする。たぶん冷えたいのだろう。ポンちゃんはいつも朝食用にパンを焼いていた。でも硬すぎて、食べられたことがない。いつも焼きすぎて真っ黒になってる。ポンちゃんのパンは硬い。もう二度と食べられない。ポンちゃん、わたしの部屋で変なことしないでほしい。わたしはポンちゃんに死んでほしい。ポンちゃんはわたしがいなくても大丈夫になっちゃって、どこかにいってしまった。冷蔵庫の中には今でもカチコチのパンがパンパンに詰まってる。ポンちゃんが大嫌いでポンちゃんを愛してる。ポンちゃんは出ていくときに首吊り紐の結び方を教えてくれた、わたしがいつでも死ねるようにと。わたしはその二日後、その紐で首を吊った。そしたら紐はするりとほどけて、わたしは落下した。ポンちゃんは嘘の結び方を教えてきたのだ。死ねカス。

バスは海には着かなかった。知らない駅について、そこはとても寂しい街だ。小さな時計の塔があって、その下で横になっている人がいる。若いカップルがベンチに腰かけて、ふたりの間に三十センチの隙間がある。わたがしが蒸発したみたいな匂いがしている。歩きながら、いくつかの人間とすれ違うがその度にわざわざどうでもいいな、と思う。他の人のことがどうでもいい。でも他の人はわたしのことをどうでもいいとすら思わないだろう。本当は全ての人に対してどうでもいいと思いたい。今電話をかけるならどんな人がいいだろうと考え、ひとりも浮かばなかった。靴擦れが多少痛い。なるべく大きな道を選んで歩いた。なんとなくその方が孤独が薄くなる気がするので。スキップをしたり、左右に不規則に回転しながら歩いてる。そうでもしないとやばい気がするため。アスファルトの濡れる匂いがしてる。カレー屋やラーメン屋がどこも閉まっている。おなかがすいたけど、別にそこまでじゃない。ふらふらして吐き気がするが、実際に吐くことをしない。ここぞとばかりに地面の上で回転したり、わざと転んだりする。その痛みがいちいち嬉しい。おぞましい雨が急に降りだした。送水管にかけられた透明な傘を盗み、開く。頭の中でオルゴールの音が流れだしてる。雨の音はすべての外界の音をかき消してくれてる。雨が世界の光量を減らしてくれてる。濡れることは、清めることだとなんとなく思う。喉を濡らすため、口を大きく開けて顔を傘からだす。それまで、大きな雨粒が顔に当たることが、こんな痛みを伴うことをわたしは知らなかった。カーブミラーに自分がうつるけど、びっくりするほど、なにも思わない。雨はあっというまに弱くなる。雲間が少しずつ開いていく。思い出している、どこでもないどこかの景色を。半袖を着ていることを少し後悔したり、口笛を吹いたり、意味もなく大声で笑ったりしながら歩いているわたしのことは、みんなの視界に入ってないみたいだし、街灯が思い出したようにつきだして、サイレンが遠くから聞こえてきてるし、それは知らない鳥の鳴き声や、ヘタクソなリコーダーの音と混ざっていつか見た映画のラストシーンみたいだし、犬がいたり、空が晴れてきたり、生臭い匂いがしてきたり、誰かが窓を開けてピアノを弾いているけど、その全てがどうでもいい。わたしがいま海の前にいること、目の前の空が暮れかかっていることがちょっと嫌だ。夕焼けが赤すぎるのが許せない、が、泣くほどではない。この程度の光量で目を細めてしまうなんて。閉じ忘れた傘に水滴がいくつかのっていて、そのビニール越しに見た赤色の空が、涙が出るほどどうでもいい。水滴がつながって落ちていく過程で、気まぐれに光を反射させることに何も思わない。こんなんだから嫌なのだ。すべてわたしには関係ない。そんなことより、無理して苦いコーヒーをのんだり、あてもなく電車にのったり、ゴミ捨て場に落ちてる花を拾ったり、スーパーボールを投げたりしたい。あと眠りたい。わたしはなるべく深く潜るため、ジャンプして海に飛び込んだ。冷たいけど泣くほどじゃない。目に水が入って痛むけど、案外すぐに慣れる。波で上下とかわからないけど、きっと沈んでる。海の中の世界はそこまで美しくなくて、安心する。わたしの手がトートバッグに引かれる。その方向から光が射し込んできて、トートバッグが海面に浮かぼうとしている。バカバカしい。彼はいまどこでなにしてるのだろうかとか、別に思わなくて、冷蔵庫をどうやって捨てればいいのか知りたくて、ゴキブリがあの日から一度も部屋に出ないことが寂しいと思わなくて、ちゃんと食えるパンをつくりたい。わたしはトートバッグの紐を離すことができなくて、陸にいた。トートバッグの中から黄色いアヒルを取り出して、海に投げ捨てた。アヒルは波に上下しながらプカプカ浮いている。本当に興味ない。わたしの空っぽなからだなんか、あんなちっぽけなアヒル一匹に救われてしまうのだ。トートバッグからびしょびしょにふやけたパンをひとつとりだす。それをわたしは口にいれる。パンを食べたのはいつぶりだろうか。しょっぱいし、溶けきったバニラアイスがこびりついてて不味い。ベタベタしていて、とてもキモい。

メロンの味

 

路上で乞食の老婆を殴ったら飴玉を吐き出した。半透明で美しい緑色をしていた。僕はそれをポケットにいれて、ペット・ショップに向かった。ガラスを叩き割って、子犬のラブラドール・レトリバーを取り出し、抱き上げた。僕は子どもの頃、大きな犬を買うのが夢だった。大きな家に住んで、大きな犬と水遊びをする。綺麗な奥さんや元気な子どもたちがいて、のんびりと過ごす。それが今まさに、叶えられようとしている! ラブラドール・レトリバーを抱えたまま、さきほどの老婆の元へと走る。真っ黒に日焼けした肌、生気のない眼差し、ボロボロの服、ゴミのような匂い。僕はたまらなくなって、老婆を殴り、求愛した。愛してる! 愛してる! そう叫びながら老婆の服を破り、セックスを試みた。子犬が尻尾を振り回しながら、腐臭を放つ老婆の皮膚を舐めまわしている。これこそ、子どもの頃に夢にみた光景! 幸福な家庭の風景! 子どもは何人ほしい? 名前はどうする? どんな習い事をさせる? 僕はピアノがいいなあ。そんな他愛もない会話をしながら、老婆を殴りつける。老婆の腐臭で、ゲロが出てしまい、それが老婆の顔にかかったことで、ますます臭くなる。子犬がそれを舐めようとしてキショいので、子犬も殴る。ああ、僕はあなたを愛している。こんなに素晴らしい時間は他にない。美しいピアノの音色がきこえてくるようだ。老婆の唾液や血液がゲロと混ざり合い、花束のように見える。鮮やかな色彩が、風に揺れているみたい。ずっと閉じていた老婆の瞼が一瞬開いて、こちらを強く見つめた。その瞬間、僕らは本当の意味で通じあった。老婆はそれから動くのをやめ、息をするのもやめていった。それでも僕は殴り続けた。僕の、無限の愛が伝わるように! 殴る度に拳に激痛が走るが、それこそ老婆が僕に伝えてくれる、愛のしるし! 老婆は少しずつ硬くなり、冷たくなっていった。気がついたら子犬はどこにもいなくなってしまった。老婆の胸に耳を当てると、心臓が動いていなかった。騙された? 僕は、また孤独になってしまった? 僕はひとりだ! 僕はひとりだ! 僕は誰のことも愛せない! 僕は大きな犬を飼うことも、ピアノの音を聞くこともできない! 僕は泣きながら老婆の唇にキスをしてペロペロと舐めた。メロンの味だった。遠くから夕方のメロディ・チャイムと、サイレンの音が聞こえる。僕はポケットから飴玉を取りだした。ベタベタしていてとてもキモかった。落ちていく夕陽にかざしてみると満月のようにも見えて、綺麗かもと思ったけど、やっぱりキモかった。

純粋にプリズマティックな憧憬

 

 

生きていることをぐしゃぐしゃにして、粉末になりたい

思考しない物質になりたい

眼球は光と関わるのをやめて

残された、いとおしさだけを感知する

消えて、熱が失われても

少しくらいは、在りたいと思う

 

 

 

 

丸山の勇気ある行動により世界は救われました

 

 

 

 

丸山が引き戸をガラガラと開けて中に入ろうとすると、老婆がいて、即座に殺された。しかし、丸山は死なない体質なので死を免れた。そこはおそらく何かの店であるが、丸山は馬鹿なのでそれが何の店なのか把握していない。丸山は服を脱ぐとテーブルの上に立ち、斧のようなものを振り回している。その時丸山は、美しいチューリップ畑を想像している……。甘ったるいキャラメルと、バッタの死骸が大量に入ったスープ……。丸山は叫びながら2トンはあろうかという巨大な老婆をただ見ている。少年時代の丸山は毎日月を見て過ごしていた。しかし少年法に守られた丸山に罰を与えることはできなかったのだ。もう誰も彼を止めることはできない……。丸山は既に巨大な老婆の手によって八度目の死を遂げている──それも壮絶な。しかしながら、丸山のその姿は完全にミッキーマウスだった。完全なるミッキーマウスと化した丸山は、怒号が飛び交う中、電気的な行列をととのえた、はなやかな行進へと向かうのであった……。それはそれとして、日本の通貨制度は完全に崩壊している。人々は自らの血液でモノを買うようになっていた。そのせいで、街中は血塗れになり、非常に生臭い。丸山は現状に一石を投じるべく、日夜全裸徘徊を行っていたのだ!  造幣局から暗殺者を差し向けられた丸山は泣く泣く戦地を後にせざるを得なかった。世界の人口は完全なるゼロになったが、丸山はもはや人ではないので生き残っていた。丸山は完全なる「叫び」になっていたのだ。完全なる「叫び」となった丸山は見渡す限りのチューリップ畑の上空を漂うのであった……。死なない体質が災いし完全なる「叫び」として永久に世界に生き続けることになってしまった丸山だけが世界の終焉を見ることになるだろう──それはこの上なく美しいものである。

 

 

 

 

 

ピンニャハ・パッパーニハについて

 

 

 

ピンニャハ・パッパーニハとはこの土地の名称で、同時にこの土地に住む神の名前である。ピンニャハ・パッパーニハはピンニャハ・パッパーニハに住む老婆の中から無作為に選ばれ、神として祀られる。選ばれた老婆はピンニャハ・パッパーニハとなり、土地で一番の大木に八日間縛り付けられ、村人から神餌を献上される。ピンニャハ・パッパーニハは人間と大地の怒りと憎しみを一身に引き受け、ゆっくりと殺される。村人たちはピンニャハ・パッパーニハを苦しめ、痛めつけることで、自身の罪を滅することができる。また、ピンニャハ・パッパーニハが大地の苦しみを一身に引き受けることで、ピンニャハ・パッパーニハの土地は天災を免れる。そのため、村人たちはあらゆる手を使ってピンニャハ・パッパーニハに痛みや苦しみを加える。しかし、ピンニャハ・パッパーニハは八日目に訪れるペヌジニの夜まで必ず生かしておかねばならない。ピンニャハ・パッパーニハはペヌジニの夜に、足と手の指先の関節から順に切断され、殺される。この時少なくとも両肩と股関節から先の腕と脚が完全に体から切り離された状態になるまでは決して殺してはならない。解体された各部位は、神の一部として村人たちに配られ、村人たちはそれを湿度と温度が高く保たれた部屋で保存した後、七日後に訪れるポンゾニィママの晩餐で食べなければならない。ペヌジニの夜までの八日間で、村人はピンニャハ・パッパーニハを決して殺さぬように配慮しながらなるべく多くの苦痛を与える。体の一部を完全に切り離す行為は許されていないが、ある程度の切断行為は容認される。村人たちは各自、ピンニャハ・パッパーニハを火で炙ったり、鋸で表面に傷をつけたり、単に殴ったりする。ピンニャハ・パッパーニハを決して殺さないために、栄養価の高い神餌を強制的に経口摂取させる他、絶えぬ流血に耐えられるように常に輸血され続け、心臓が決して止まらないように電流が流され続ける。ピンニャハ・パッパーニハがペヌジニの夜に死ぬと、七日後に訪れるポンゾニィママの晩餐の翌日に定められるピネスムスの祝祭の中で、無作為に選ばれた老婆が新たなピンニャハ・パッパーニハとなる。近年、ピンニャハ・パッパーニハでは、ピンニャハ・パッパーニハを高頻度で殺害する必要があるので、ピンニャハ・パッパーニハとなるべき老婆が枯渇する傾向にある。現在は、ピンニャハ・パッパーニハの村人はピンニャハ・パッパーニハとなり得る老婆や将来的に老婆となる女性を他の村や町、国から拉致し、村に監禁する等の工夫で老婆の絶滅を防いでいる。ピンニャハ・パッパーニハの伝統と歴史を絶つことは決して許されない。

 

 

ウサギ畑

 

 

 

 

 

ウサギ畑にユウちゃんはいた。土からウサギの耳が生えていて、それを引っ張るとウサギが収穫できる、それがウサギ畑だ。ユウちゃんはどんな物で殴っても怒らないのでハンマーで殴ったが、それからすっかりおかしくなってしまった。かなりの声量でクリスマス・ソングを歌いながら、一年中街を徘徊するようになってしまった。そのおかげで街は一年中クリスマスになって、とてもハッピーなのだ。ユウちゃんはオクラの観察日記をつけていたが、オクラなんて育てていなかったからたまげたもんだ。わたしはユウちゃんのことを毎日観察していて、ユウちゃんのことを愛しく思っている。ユウちゃんは誰からの愛情も全く受けずに育ったくせにまだ処女で、髪も染めない。おまけに人も殴らず、人に殴られる。ユウちゃんは先日駅前でクリスマス・ソングを歌っていたら少年たちから投石を受け、血を出してしまった。それでもユウちゃんは首を吊らないから偉いのだ。わたしはユウちゃんの服を脱がせてショッピング・モールを歩かせた。ユウちゃんの傷だらけのからだが、クリスマスみたいなのだ。ユウちゃんのオクラの観察日記には、オクラの成長や、自分のことが記されている。しかし、ユウちゃんはオクラの色すらしらないのだ。オクラの色すら忘れてしまったユウちゃんは、オクラの観察日記にウサギ畑のことや、クリスマスのことばかり書くようになった。ユウちゃんには街の全てがピカピカと光って見えて、電飾に包まれているのだ。ユウちゃんは学校にも来なくなって、家族のいない家に帰るようになった。ユウちゃんは何をされてもずっと笑顔で、泣くときも笑顔だ。ユウちゃんを叩いても切っても焼いても、ずっと笑顔だ。ユウちゃんは昔ケーキ屋さんになるのが夢だった。かわいいクリスマスケーキをつくって、蝋燭を立てるのが夢だった。ユウちゃんは絵を書くのも上手で、よくオクラの絵を書いていた。でも今のユウちゃんはオクラの色すら知らない。クリスマスの日に、たくさんの雪が降った。ウサギ畑も、雪に埋もれてしまった。ユウちゃんはオクラを心配してウサギ畑の雪を掘っていた。でもユウちゃんはオクラの色をしらない。わたしはユウちゃんにガソリンをかけて燃やした。その日から街にクリスマスはこなくなった。でもそれは、わたしにもこの世界にもまったく関係ないのだ。

 

 

 

 

 

マスカット・キャンディ

 

 

 

 

 

 

君が死んだときの瞳の色を見たいだけなんだよ。死んだときに君の瞳の色が水曜日みたいなグリーンだったらいいなと僕は思うんだよ。マスカットをすり潰したみたいな水曜日色が君の死んだ瞳の色だと思うんだよ。そしたら君は果実の仲間入りなんだよ。欲を言えば食べたいし咀嚼を通じて君に触れたいよ。君に触れるために君には果実になってほしいよ。君が果実になったらピアノで鳴らしたラの音みたいに青みがかったグリーンの瞳を見たいんだよ。浴槽に白ワインをたっぷり注いで朝になる前の太陽をいくつも浮かべて君を沈めて溺死させたいよ。君が果実ならバニラアイスと一緒に食べたいよ。君の瞳が砂糖菓子みたいにベタベタだと嬉しいよ。君の瞳はきっと真昼の夢みたいな色してるよ。ただ君が死んだときの瞳の色を見たいだけなんだよ。君の瞳ってば、何色なのかな。

 

 

 

 

 

 

ストロベリー・ショートケーキ・スイート・ラブ・ストーリー

 

 

 

僕は老婆への脳姦でしか射精できない人間だが、恋くらいしたっていい。ケーキ屋の女はワインみたいな色の瞳をしていて、常に笑顔でいる。僕が買ったケーキを素手で持ち帰ったり、店の前で捨てたりしてもずっと笑っている。他人の笑顔をほとんど見た事がない自分には奇妙な光景だった。僕は毎日そのケーキ屋でタバコを注文するのだが、いつも売り切れで買えたことが一度もない。だから僕はここに通うようになってから全くタバコを吸えていない。全てあの女のせいなのだ。僕は毎日ケーキ屋に通いながら女に対する憎悪とそれに付随する不可思議な感情を大きくしていった。女は僕を馬鹿にして笑っている。ケーキがタバコの代わりになるはずがないのだから。月が満ちかけて乾いた夜に、やたらと街が浮ついて、電球が木々を飾り、絶えぬベルの音や、肉の焼ける匂いで溢れていたからあの日はきっとクリスマスだった。いつものケーキ屋には大勢の客がいた。女は赤い服を着ている。僕は人々を押しのけていつものようにタバコを注文した。するとその日の女はポケットから裸のタバコを15本取り出し僕の手の上に置いた。いつものようにワイン色の瞳をして笑っている。僕はすかさず女を殴り、ケーキと一緒に連れ去った。人は恋に落ちる時、脳を見たいと思うのだ。家に連れ込み、何度も女を殴った。生きているかはわからない。恋に生死は関係ないのだ。まず眼球を取り出しワイングラスに注いで飲む。女の頭を割り、脳を取り出す。僕はこの無限の快楽で永久の幸福を手にすることができると信じていた。しかし女の脳に陰茎を挿入しても、予感していたような快楽を得ることはできなかった。その脳には美が欠落していて僕を幸福せしめるのに十分な密度を持っていなかった。一瞬にして絶望の底に落ちた。僕は血まみれの脳を握り潰してケーキの上に乗せた。それから久しぶりのタバコに次々と火をつけ、一度吸ってからケーキに差していった。美とはまさしく甘い絶望で、恋というものはとにかく甘くて幸せなものなのだ。ちょっぴり苦味があるけれど、甘く甘くあるべきなのだ。僕はその日初めてショートケーキの中で射精した。女の脳が混ざった甘い甘い恋するショートケーキは老婆の脳に似てて腐り切っていて絶望まみれでスカスカでグチャグチャでキショいのだ。

 

 

 

ミメー

 

 

 

 

白くて巨大なバッタが東京の街をぐちゃぐちゃに壊している。飛び跳ねる毎にビルを崩し、橋を落とし、地面を割っていく。口から赤い液体を吐き出し、街中を飲み込んでいく。ユウちゃんと朝まで散歩する予定だったが、急遽世界が終わるのを眺めながらの決行となった。ユウちゃんは髪も染めたことないとてもいい子だ。ユウちゃんは笑うのも怒るのも苦手で、泣くのも苦手だ。世界は終わりそうだが、キョトンとしている。ふたりでコンビニに入ってチョコレートをひとつユウちゃんのポケットに忍ばせ、半ば強引に万引きをさせた。ユウちゃんは少し悪者になった。夜は更けていくばかり。正義のヒーローは現れず、街は壊されていくばかりだ。ずっとこの街に住んでいるのに、ノスタルジアの欠片もない。人がたくさん死んでいて、血がすごい。あらゆる場所が燃えていて、やや暑い。ユウちゃんも服の胸のあたりを掴んで、パタパタしている。ふたりで思い出の校舎の屋上に向かうことにした。多分割と頑丈なのだ。私は自転車を盗んで、ユウちゃんを荷台に乗せて共犯にした。逃げなきゃだから、ということにして。通学路にしてはやや燃えすぎている道の上でペダルを漕いで、アイス食べたい、などと言う。バッタが吐いた体液が街中を赤く染めていく。ようやく校舎の屋上に着いた頃には、夜が少しだけ明けかかっていた。背の高い建造物はほぼ全てバッタに壊され、平坦な地になっていた。初めて東京の地平線を見た。太陽が少しずつ昇ってくる。真っ赤になった街はぜんぶ燃えていて、空まで赤く染めていた。それはまるで夕暮れみたいだった。未明だが。ユウちゃんは泣いていた。ユウちゃんが泣いているところを初めて見た。ユウちゃんはポケットからハンカチを取り出して涙を拭こうとしたけど、ドロドロに溶けたチョコレートがこびりついていてキモかった。世界は終わったが、ユウちゃんは笑った。

 

 

 

 

呻き

 

 

 

二階の部屋の白いカーテンからレモンの香りと一緒に入ってくる光の乱調と雑音、それが歌声でもあった。君がパンを水に浸して食べるのが儀式みたいだった。その意味を知った者は殺されて、水に濡れぬまま溺れる。真っ暗な海の上でたった一人でボートを漕いでいるような気分の日没後、ポケットにナイフを忍ばせた夜の宴会。どこかで旅人と会った日の夏の大気に浮かぶ雲みたいに、化膿していく僕の破綻して錯乱する神話。自転車と麦わら帽子だけの美学に撒いた雑草鎮静剤と青白い円環のループ。君があの月を何に例えたのかを忘れ、傘とレインコートでは耐えられない呻き声が鬱屈なサーカスみたいに頭の中に降り続けている。

 

 

昨日の夢

 

 

 

 

荒れた海の上に大きな色とりどりのバルーンが無数に浮かんでいる。夜中に食用カエルと話し込んでいたら、腎臓を落とした。僕はそれを食べて、彼女を探した。彼女は飛び降り自殺を七度試みたせいで、多少問題がある。自由を恐れて、誰かに自分を束縛させようとする。水色のボールがバウンドしてる。踏切は簡単にくぐれるし、死は近い。かわいいピンク色の服は、空に映えるように。白いワンピースは燃えるとき映えるように。孤独は群集の中にしかない。蛆虫が死体に群がっているけど頑張れば食えそう。ガチャポンしたら人の耳が出てきた。人魚がいたら断面を見たい。彼女を探してる途中で、包丁でキャッチボールした。生きたくても生きられない人もいるらしいので、死のう。毎日恋の話ばかりしている。相対性理論は全否定って感じで、月で真夏の恋したい。空を飛ぶのはお前らだけじゃないって、馬鹿な鳥にわからせたい。どんな穴を覗いても彼女はいなかった。落雷で調理費が浮いた。血まみれのバターで味付けたゾウ丼と、アリの死骸です。神に近付こうとして、深爪した。パイプオルガンの音が鳴り止まない中ジェットコースターに乗って黒くなった死体をいくつも見せつけられた。気付いたらクリスマスだった。月は南半球にあるので、真夏にクリスマスがくる。彼女は空中にいた。バルーンで首を吊って浮かびながら死んでいった。彼女の目は真珠みたいだなんて言えない。ゴキブリの羽みたいに黒光りしていた。トナカイが彼女の周りをぶんぶん飛び回っていた。夜空の星が赤いセーターにからまってうざそう。プレゼント梱包用のリボンを頭に巻いていた。固結びだったが。ジングルベルの大群が空を覆い尽くして鼓膜をやった。彼女がよくゲロをかけてきたことを思い出した。ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル。空を泳ぐときに平泳ぎなのがあほらしかった。全てが腐っているはずなのに、焼きたてのグラタンプリン七面鳥パフェみたいな匂いがした。トナカイじゃない、これシカだ。そんなことを言いながら彼女は絶命していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス

 

 

 

橙色の暖かい光が部屋の中を満たしている。お酒の瓶がずらりと並んでいて、妖艶に光ってる。ここにはクレープもあれば、ワインもある。ここにないものはきっと世界のどこにだってない。お肉をジュージュー焼いている音が聞こえてくる。きっとこんなに大きな七面鳥の丸焼きだよ。雪が降ってる。きっと僕たちのためだけに降ってる。夜だってのに街灯やイルミネーションでこんなに街中キラキラだ。とりあえずキラキラさせとけってな感じで。きっと空の上からでもわかる。銀河の外からでもわかる。あんなに大きな木が、枝の先まで全部光ってる。蝋燭の火のひとつひとつが、みんな僕たちを祝福してる。スキップしたくなるような音楽が、今日は街中、いや森の奥までずっと夜通し流れてる。赤い服のひとたちがステージの上でラッパ吹いてる。ああ僕たちのためにだよ。ケーキもある。こんなに大きな。チョコレートもある。クッキーも。おばあちゃんがパンもくれるよ。あらゆるものがぜんぶ光ってて眩しいくらいなんだ。今日だけはシャンパンを飲んでもいいんだ。ママには内緒で。メリーゴーランドは我慢だよ飲酒運転だから。教会で歌を歌うのもいいけど、今日はきっと神様より偉いぞ。温かいポテトとこんなに大きなビール。みんな靴下を吊るしているけど、僕は今年は眠らないんだ。それにきっと僕らにはもう朝はこない。どこまでも澄んだ冬の夜空で星になるんだ。

 

 

多分、海を見てた

 

悪い夢をみてうなされながら起きた瞬間から、ピンクネオンの安っぽいホテルから一人で出てくる女をぶん殴ろうと決めていた。錠剤を二十四錠食い、タバコを二十五本吸いながらまだ見ぬ女に宛てた手紙を書いて、夜を待った。

 

拝啓。はじめまして。あなたにとって、わたしは何なのでしょう。わたしは恋人なのでしょうか。いいえ、そうでないことはわかっています。わたしとあなたは互いに愛し合うことなんてできない存在ですものね。それに、わたしとあなたは今はじめて出会ったばかりですから。しかし、あなたもわかっているように、わたしとあなたは本当は互いに愛し合うべき存在なのです。なぜなら、あなたはあなたであり、わたしがわたしであるから。わたしが愛すべきは処女であり、そして、あなたは処女です。あなたがたとえ肉体の快楽を知っていても、誰かと結びついたことがあったとしても、あなたは本当の愛を知らず、即ちあなたは処女であるはずです。そしてわたしも同じです。だから私たちはお互いの無垢と無垢を永遠のものにするために、互いに愛し合うべきなのです。わたしたちは今まで出会うことができなかったばかりに、愛し合うことができなかった。しかし今、処女であるあなたとわたしは初めて出会い、愛し合うことができるのです。そのうえで、わたしと肉体関係を持ちましょうなんてことは言いません。恋人になろうとも言いません。ただ愛してると囁いてほしいのです。

 

手紙をなるべく丁寧に折り、ポケットに入れ、馬鹿みたいに騒がしい街へ向かった。愛を求めて愛のない通りを彷徨い、殴るべき相手を探した。街灯の揺れ。同じフレーズを繰り返すギター。各種金属の錆。ふらつく人間たち。太った黒いネズミ。錯乱。渦。道化師になれない。寒いし、吐き気がする。黒い男たちが誰かを傷付けているようにも、世界を救っているようにも見えた。手を繋ぐ男女。どうせ刺青がある。喉を通った胃液たちが、コンクリートの上で各種食材をゆっくり溶かしている。女がたくさんいて全員を殴り殺したいが、私を愛してくれそうにない。汚い命。海鳴り。ピアノは脳内でしか鳴っていないようだった。乾いた排水溝。波にのまれる錯覚。地面が柔らかく、歪む錯覚。割れた酒瓶。蛆みたいな虫たち。陰湿なホテル街。切れかけのネオンの明滅。彷徨。意味の無い言葉を叫んでいる。左右に頭を何度も振る。拳を握ったり開いたりする。目を思い切り開いて周辺を見回す。津波に襲われてるみたいだ。霧がかかったような街。月が点滅しているように見える。石をわざわざ拾って捨てる。唾を吐く。安っぽいピンクネオンの看板。レンガに爪を立てる。歯を突き立ててみる。頭を思い切りぶつけてみる。ふらついて空を見上げる。夜空で比重の違う色水たちがかき混ぜられている。声を上げる。唸るような風の音。世界に自分しかいないと感じる。耳鳴り。コンクリートの硬く冷たい感触。涙は出ないが泣き声を上げる。死にたいと感じる。嗚咽だけ。刃物なし。濁流に流される感覚。寒い夜。ピンク色の光。女がひとりで出てくる。顔面を殴る。もう一度殴る。もう一度殴る。肌は白い。顔面を殴る。高い声が聴こえる。ふらつく。倒れる。何度も顔を殴る。馬乗りになる。覆い被さる。殴る。血液が流れる。白い肌を伝う。色んな目を見た。怒りの声や許しを求める声が聴こえた。欠けた前歯。乱れた髪。もう一度殴る。手紙を取り出し、渡す。初めて涙が出る。内臓が熱くなった。互いの存在の出会いを感じる。月の点滅が激しさを増す。複数の色が溶け合った空の明滅。愛してほしいと伝える。涙が血まみれの頬に落ちる。涙と血液が溶け合うことがない。様々な音が押し寄せる。目まぐるしく景色が変わる。全身に痛みが走った。冷たいコンクリートの感触や、海が干上がったような匂い。愛してほしいと感じる。心臓がいたい。遠くで断続的に繰り返される音が心地よい。岸辺のような音。ただ海の中心のようでもある。景色や音が混ざり合う。騒がしいのが、かえって静かに思える。夜空の明滅が渦になる。知らない女が少しだけ振り向いて何かを囁くような幻覚が一瞬みえた。洪水のように流されていく。滴り落ちる水の音が赤いように思える。右手の甲にだけ、ほんの少し愛を感じた。知らない女は、多分、海を見てた。

 

 

 

 

雨のこと

 

 

 

ㅤ折り畳み傘じゃ全然足りない大雨の帰り道だった。電柱に少女が埋め込まれていた。

 雨宿りですか、と僕は聞いた。違います、と少女は答えた。何となく僕は家に帰りたくない気分だったので、しばらくそこにいることにした。

 朝から降り続く雨はそこかしこに水溜まりをつくっていて、反射する街灯の光を雨粒が揺らしていた。時々風に吹かれると、雨は横なぶりになって服ごと僕を水浸しにしていった。

 何をしているんですか、と少女が話しかけてきた。月が出るのを待っているんです、と僕は思ってもないことを言った。雨はしばらく止みませんよ、と教えてくれた。

 大雨が街の全ての音をかき消して、かえって静かに思えた。もしかしたら今この街には僕とこの電柱しか存在しないのではないか、とも思った。僕の真上で雨粒が傘にぶつかる音が、何故か遠くの雨の音に聞こえた。

 あなたこそ、帰らないんですか、と僕は尋ねた。帰れないんです、電柱に埋め込まれているので、と少女は答えて、でも帰りたくもないんです、と付け足した。

 僕はポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけようとした。でもタバコは濡れていて火はつかなかった。僕は濡れたタバコを無理やり箱に押し込み、ポケットに戻した。

 雨は好きですか、と尋ねた。どちらでもないです、と少女は答えた。では雨の音とピアノの音ならどちらが好きですか、と僕は聞いた。どちらも同じくらいです、と少女は答えた。

 雨が止む気配はなかった。街をより暗くしようとしているみたいだった。電柱を見ると、少女が涙を流しているように見えた。

 泣いてるんですか、と僕は尋ねた。これは雨です、と少女は答えた。

 僕は傘を電柱に立て掛けて、その場を離れた。去り際に少女の口が動いたようにも見えたが、雨の音はその声もかき消した。