ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

メロンの味

 

路上で乞食の老婆を殴ったら飴玉を吐き出した。半透明で美しい緑色をしていた。僕はそれをポケットにいれて、ペット・ショップに向かった。ガラスを叩き割って、子犬のラブラドール・レトリバーを取り出し、抱き上げた。僕は子どもの頃、大きな犬を買うのが夢だった。大きな家に住んで、大きな犬と水遊びをする。綺麗な奥さんや元気な子どもたちがいて、のんびりと過ごす。それが今まさに、叶えられようとしている! ラブラドール・レトリバーを抱えたまま、さきほどの老婆の元へと走る。真っ黒に日焼けした肌、生気のない眼差し、ボロボロの服、ゴミのような匂い。僕はたまらなくなって、老婆を殴り、求愛した。愛してる! 愛してる! そう叫びながら老婆の服を破り、セックスを試みた。子犬が尻尾を振り回しながら、腐臭を放つ老婆の皮膚を舐めまわしている。これこそ、子どもの頃に夢にみた光景! 幸福な家庭の風景! 子どもは何人ほしい? 名前はどうする? どんな習い事をさせる? 僕はピアノがいいなあ。そんな他愛もない会話をしながら、老婆を殴りつける。老婆の腐臭で、ゲロが出てしまい、それが老婆の顔にかかったことで、ますます臭くなる。子犬がそれを舐めようとしてキショいので、子犬も殴る。ああ、僕はあなたを愛している。こんなに素晴らしい時間は他にない。美しいピアノの音色がきこえてくるようだ。老婆の唾液や血液がゲロと混ざり合い、花束のように見える。鮮やかな色彩が、風に揺れているみたい。ずっと閉じていた老婆の瞼が一瞬開いて、こちらを強く見つめた。その瞬間、僕らは本当の意味で通じあった。老婆はそれから動くのをやめ、息をするのもやめていった。それでも僕は殴り続けた。僕の、無限の愛が伝わるように! 殴る度に拳に激痛が走るが、それこそ老婆が僕に伝えてくれる、愛のしるし! 老婆は少しずつ硬くなり、冷たくなっていった。気がついたら子犬はどこにもいなくなってしまった。老婆の胸に耳を当てると、心臓が動いていなかった。騙された? 僕は、また孤独になってしまった? 僕はひとりだ! 僕はひとりだ! 僕は誰のことも愛せない! 僕は大きな犬を飼うことも、ピアノの音を聞くこともできない! 僕は泣きながら老婆の唇にキスをしてペロペロと舐めた。メロンの味だった。遠くから夕方のメロディ・チャイムと、サイレンの音が聞こえる。僕はポケットから飴玉を取りだした。ベタベタしていてとてもキモかった。落ちていく夕陽にかざしてみると満月のようにも見えて、綺麗かもと思ったけど、やっぱりキモかった。