ゆるふわ日記

ゆるふわだよね。

不味い麺を啜りながら

 

  行きつけのラーメン屋で微塵の興味もない野球中継を眺めながら伸びきった麺を啜る。金曜の夜だ。隣に座っていた知らない髭面のおっさんが話しかけてきた。俺の食ったラーメン代、払っといてくれ。そいつはそう言ってからのそのそと店を出ていった。俺は残りの不味い麺を啜って、汁を飲み干してから立ち上がる。いつもと同じラーメンを食ったのに、なぜかいつもの倍の代金を払うことになった。店を出てから、俺は考える。どうして俺はラーメン二つ分の代金を払ったのだろうか。北の方向から吹いてきた風が髪を揺らし、耳に掛けていた毛が目を覆った。思えば、俺は今日、ラーメンを二杯食ったのかもしれない。

  窓から夕日が差し込んでくる電車に揺られながら、文庫本のページをめくる。紙がチカチカして読みにくい。これは学生や、若い女性に大人気らしい。しかし、この本のどこが面白いのか全くわからず、ひたすら考えていた。小難しい文体に、意味ありげなフレーズ、曖昧で遠回しな表現。俺は楽しむどころか、理解することもできなかった。悲しくなって泣いてしまった。世界中に、自分だけただ独り取り残されているような気分だった。

  行きつけのラーメン屋で微塵の興味もない野球中継を眺めながら今日も縮れた麺を啜っている。金曜の夜だ。隣には髭面のおっさんが座っていて、自分と同じラーメンを啜っていた。そこで俺はポケットから文庫本を取り出し、適当なページを開いてからおっさんに見せた。なんだ、このつまらない本は。おっさんはそう言った。この本の意味がわからないんだ。何が言いたいのかさっぱりわからない。と俺は言った。この本に、意味なんかねえよ。おっさんは吐き捨てる。どうしてそんなことが言えるんだ。と会話を続ける。これは、俺が書いた本だからだ。全部適当さ、意味なんかない。いいか、文学で伝えたいことなんかないんだよ。だって。それなら、どうしてラーメンなんか食べているんだ。おっさんは最後に残った麺を啜ってから立ち上がった。ラーメン代、払っといてくれ。そう言っておっさんはのそのそと店を出ていった。俺は残りの不味い麺を啜って、汁を飲み干してから立ち上がる。今週もいつもの倍の代金を払うことになった。店を出てから、俺は考える。どうして俺はラーメン二つ分の代金を払ったのだろうか。北の方向から吹いてきた風が髪を揺らし、耳に掛けていた毛が目を覆った。思えば、俺は今日、ラーメンを二杯食ったのかもしれない。